研究課題
本研究の目的は、これまでの鍼の臨床試験で用いられてきた各種シャム鍼の生理的活性の有無を調べることである。そこで、鍼灸刺激に対する受容器とされているポリモーダル受容器の各種シャム鍼刺激に対する反応性を微小神経電図法(ヒトの末梢神経から活動電位を記録する方法)によって解析した。その結果、ヒト皮膚のポリモーダル受容器とされる機械刺激と熱刺激に反応するユニット(以下CMH)は、記録できた全例において、通常の鍼の他、皮内鍼、円皮鍼、シャム鍼として用いられてきた最小鍼(浅い鍼の刺入)、非刺入型シャム鍼(鈍化させた鍼の機械刺激)、鍼管や爪楊枝の機械刺激のいずれにも明確な反応を示した。CMHが反応しなかったのは鍼体を除去したシャム円皮鍼のみであった。一方、ラット脳からのニューロン活動の記録において、本年度は、報酬系の中枢とされる側坐核を中心に記録実験をすすめた。得られた7例の側坐核の特異的侵害受容(NS)ニューロンの検索の結果、受容野は全身性ものが大半であり、興奮性4例、抑制性3例であった。受容野に対する円皮鍼の貼付・圧迫によって、同様の反応性を示した。また、シャム円皮鍼の貼付・圧迫により反応した例は無かった。また、内因性鎮痛機構の中枢とされるPAGニューロンに対する円皮鍼の刺激効果は、受容野に対するピンチ刺激と同様の興奮または抑制の反応を示したが、シャム円皮鍼には反応しなかった。今回の研究によって、従来の鍼臨床試験で用いられてきたすべてのシャム鍼がポリモーダル受容器を興奮させることが明らかになった。このことは、これまでのランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシスの前提とされていた、シャム鍼を生理的に非活性とすることが誤りであることを示しており、これまでの鍼臨床試験の再解析と鍼の特異的効果の証明のためにシャム円皮鍼を用いたRCTの必要性を強く示唆している。
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