研究課題/領域番号 |
23590906
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
鍋島 茂樹 福岡大学, 医学部, 准教授 (50304796)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | インフルエンザ / 漢方薬 / 麻黄湯 |
研究概要 |
インフルエンザ治療において漢方薬「麻黄湯」は臨床的に有効であるが、その薬理学的機序はわかっていない。in vitroにおいて麻黄湯が抗インフルエンザ・ウイルス活性を有するかどうかを検討し、あわせてその機序を解析することが、本研究の主目的である。この研究を通じて、我が国の伝統薬である漢方薬麻黄湯が、抗インフルエンザ薬としても位置づけされ、EBMとして世界の臨床現場で重要視されることになればその意義は大きい。 平成23年度は、in vitroにおいて麻黄湯がインフルエンザ・ウイルスの増殖を抑制するかどうかを証明することが大きな目標であった。ヒト肺癌細胞株A549にインフルエンザウイルス(PR/8)を感染させ、24時間後に培養液中の感染性ウイルス量及び細胞内ウイルスRNAを測定すると、コントロールのlaninamivir、amantadineと同様、あるいはそれ以上に、容量依存的にウイルス量は著明に低下した。また、Western blottingでも細胞内ウイルス蛋白は麻黄湯処理で低下した。麻黄湯の効果は、A/H1N1 pdm09、A/H3N2、B型ウイルスといった種々のサブタイプに対しても、また他の細胞株を用いた場合にも同様に認められた。抗ウイルス効果は、麻黄湯による前処置及び感染初期に麻黄湯を添加した場合に顕著であることがわかった。 以上より、麻黄湯がin vitroにおいてノイラミニダーゼと同様、抗インフルエンザ・ウイルス効果を有することが証明された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の「研究の目的」は、in vitroの実験系において、麻黄湯が抗インフルエンザ効果を有するかどうかを調べることであった。慎重に実験系を組み、ほぼ順調にデータを得ることができ、現在までで、その目的についてはほぼ達成していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度、25年度にかけては、平成23年度に行った「麻黄湯の抗インフルエンザ・ウイルス効果」の機序を解明することが大きな目標となる。麻黄湯の作用機序は、おそらく多岐にわたると考えられるが、その1つとして、平成23年度は抗ウイルス分子である1型およびIII型インターフェロンとその誘導物質であるMx GTPaseとPKRの関与を調べることになる。麻黄湯が、これら宿主の抗ウイルス分子を誘導・発現させることによって、インフルエンザ・ウイルスの増殖を抑制している可能性が考えられる。また、その他にも、最近話題となっている「オートファジー」にも注目していきたい。オートファジーは真核生物に普遍的に存在する細胞の恒常性維持機構の1つで、近年種々のウイルス排除に大きな役割をはたすことがわかってきた。インフルエンザ・ウイルスはオートファジーの成熟を阻害することが知られているが、麻黄湯を添加することで、オートファジーの誘導や、成熟に関してどのような影響が認められるかを調べていく予定である。 また、学会や論文を通して、積極的に研究者や感染症専門医に対して、この研究成果を発信し、麻黄湯の抗インフルエンザ効果が信頼できる研究にもとづくものであることを、言及していきたい。もしこれらの機序が正しければ、麻黄湯の効果はインフルエンザ特異的なものではなく、急性感染症をきたす多くのウイルスに対しても有効である可能性がある。実際の臨床ではインフルエンザ以外にも使用されているため、新しいタイプの抗ウイルス剤としても、評価が可能である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
前年度の物品費に関しては、他教室のものを使用させてもらうことができたので、繰越金が発生した。次年度に関しては、前年度の繰越金100万円余を用いてディープフリーザー(-80度相当)が必要と考えている。その他、データ解析用のソフトやPCも購入が必要である。また消耗品としては、実験に使用する試薬が継続して購入する必要がある。旅費に関しては、学会・研究会への参加・発表を引き続き行う予定である。実験を手伝っていただく実験助手に対しては謝金をはらう必要がある。
|