研究課題/領域番号 |
23590907
|
研究機関 | 独立行政法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
諸井 雅男 独立行政法人国立国際医療研究センター, その他部局等, その他 (30256721)
|
研究分担者 |
廣江 道昭 独立行政法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 医員 (80101872)
窪田 哲也 独立行政法人国立健康・栄養研究所, その他部局等, 室長 (60385698)
瀧 淳一 金沢大学, 大学病院, 講師 (10251927)
吉田 恭子(今中恭子) 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00242967)
|
キーワード | サルコイドーシス / アクネ菌 / 常在菌 / マクロファージ |
研究概要 |
サルコイドーシス(サ症)は全身性疾患であり、一般に比較的予後良好であるが、ひとたび心臓に病変が及べば予後不良となる。早期に診断しステロイドを使用すれば予後は改善されるので早期診断がきわめて重要である。サ症の原因はアクネ菌感染による過敏性免疫反応が示唆されているが不明の点も多く、動物モデルは病因解明や早期の診断法開発に有用と考えられる。近年、肺サ症のマウスモデルが報告されたが、このモデルにおける心サ症の検討はなされていない。本研究の目的は肺サ症マウスから心サ症のマウスモデルを確立し、このマウスを用いて病態および早期診断法の可能性を探ることであった。3年計画の1年目は、肺サ症マウスモデルの確立と心サ症モデルの可能性を探ることであった。アポE欠損マウス(ApoE-/-)にコール酸含有高脂肪食(HFCD)を16週間与えるとその40%に肺サ症を発症するという報告の再現性を検討したが、10%程度に肺門リンパ節に肥大したマクロファージの集簇を認めたにすぎなかった。原因と考えられているアクネ菌が肺に存在する可能性が低いために、モデルの作成確率が低かった可能性が考えられた。2年目はこれを解決するためにアクネ菌をApoE-/-HFCDマウスの気道内に直接注入する肺サ症マウスモデルを作成解析した。このモデルでは肺病変はほぼ100%に認められた。しかし、心病変としては血管周囲の線維化や血管内に肥大したマクロファージの集簇を認めたが、ヒトのgranulomaとは明らかに異なる病理所見であった。ごく最近、マウスはヒトの炎症反応とは異なることが報告されたため、マウスにヒトで認められるgranulomaを期待するのではなく原因菌と考えられているアクネ菌の肺、心、血液の存在をPCR法により検討した。驚くべきことに肺だけではなく心にもアクネ菌が常在菌として存在する可能性が現在のところ示唆されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アポE欠損マウス(ApoE-/-)にコール酸含有高脂肪食(HFCD)を16週間投与し、かつ経鼻からヒトアクネ菌(死菌)を投与することにより肺および心に肥大したマクロファージの集簇を認めるモデルを作成可能であった。マクロファージの集簇をgranulomaとすれば、サルコイドーシスのモデルマウス作成はほぼ完全に達成された。しかし、マクロファージの集簇のみではヒトでみられる非乾酪性のgranulomaとはいえない。ごく最近マウスの炎症反応はヒトと異なることが報告され、ヒトと同じ病理像を期待することが適切でないのではという疑問が提出されている。そこでマウスではマクロファージの集簇をもってgranulomaとし、現在注目されている病態としてのアクネ菌との関係を詳細に検討することが、病態解明および治療への近道と判断された。アクネ菌のプライマーセットを数種類用いたPCR実験より、マウスではアクネ菌は肺および心臓に常在菌としてある確率で存在する可能性が出てきた。しかも経鼻投与したアクネ菌(ヒトから抽出した死菌)までも心臓に存在する可能性がでてきた。現在その経路などの病態を検討中である。マウスの病態がそのままヒトに適合するかどうかは不明であるため、ヒトの肺および心の組織でも剖検標本において検討を予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
アクネ菌のプライマーセットを数種類用いたPCR実験より、マウスではアクネ菌は肺および心臓に常在菌としてある確率で存在する可能性が示唆される。しかも経鼻投与したアクネ菌(ヒトから抽出した死菌)までも心臓に存在する可能性がある。現在その経路などの病態を検討中である。肺に常在菌として存在するアクネ菌が心臓にも存在することが示されれば、このアクネ菌に対する免疫反応の違いがgranulomaを形成するかどうかの違いとなっている可能性がある。サルコイドーシスの病因論においては、3つの要素すなわち、病原体としての起因物質(サルコイドーシス起因体)、疾患感受性としての宿主要因、発症をトリガーする何らかの環境要因が提示されている。サルコイドーシス起因体としてのアクネ菌が常在菌として存在する可能性が示されれば、起因体をターゲットとした治療よりも宿主要因としてのTh1型免疫反応の制御が重要となる。常在菌として存在すると言うことはヒト生体にとっては悪いことばかりではなく好都合な作用を有する可能性もあるからである。ヒトにおいてもアクネ菌が心臓に常在菌として存在することを否定するデータは現在のところ報告されていない。むしろ支持する報告が認められる。サ症ではないヒトの肺および心の剖検標本においてアクネ菌が存在するかどうかを検討することはマウスにおける仮説をヒトで検証することになる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
サルコイドーシスモデルマウス(アポE欠損マウス(ApoE-/-)にコール酸含有高脂肪食(HFCD)を16週間し、さらに経鼻からヒト死菌アクネ菌を投与したモデル)から肺、心、血液の標本を作成する。肺と心臓においてgranuloma形成の有無を病理で検討する。H.E染色、マクロファージの染色、リンパ球の染色、線維の染色を駆使し、病巣を病理学的に解析する。同時に肺、心臓、血液標本において3種類のアクネ菌のプライマー(A,B,C)を用いた解析をおこなう。プライマーAはマウスに常在するアクネ菌の検出に感度よく反応する。プライマーBはマウスに常在するアクネ菌と経鼻投与されたヒト死菌のアクネ菌療法に反応する。プライマーCはヒトアクネ菌とのみ反応する。これらのプライマーを用いることによりアクネ菌のマウス動態をある程度推定することができると考えている。さらにヒト肺および心臓の組織標本をもちいて同様のPCRをおこない、アクネ菌が常在菌として存在する可能性を検討する。
|