研究課題/領域番号 |
23590909
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩切 大 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (10307853)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | EBV / EBER / 胃がん / TLR3 / 自然免疫 |
研究概要 |
EBウイルス(EBV)が胃上皮細胞に感染すると、EBVのnon-coding RNAであるEBERによりIGF1の発現が誘導され、感染細胞の増殖が促進される。本研究は、EBERによるIGF1の発現誘導機構の解明を通じ、EBVによる胃がんの発生のメカニズムを明らかにすることを目的とし行っている。これまで我々は、EBERがウイルスRNA認識分子であるRIG-Iを活性化、I型インターフェロンやサイトカインの産生を誘導することを明らかにした。その後の研究で、EBERと類似構造をもったアデノウイルスRNA(VA)もRIG-I活性化能を持つことを明らかにした。また我々は、EBERがEBウイルス感染細胞より細胞外に放出され、それがTLR3を介したシグナル伝達を惹起することを見出し、このEBERによるTLR3シグナルの活性化は伝染性単核症や慢性活動性EBV感染症、EBV関連血球貪食症候群の発症に寄与している可能性があることを明らかにした。さらにその後の研究で、EBV関連血球貪食症候群の動物モデルにおいてもEBERが末梢血中に検出されることが明らかとなり、EBERによる自然免疫シグナル活性化の病態形成への寄与を示唆するものと考えられた。 一方、EBERはEBV感染胃がん細胞からも放出され、それがTLR3シグナルの恒常的な活性化を誘導していること、そしてこのTLR3シグナルの活性化がEBERによるIGF-1産生誘導に関与しているということがわかった。さらにその後の解析で、EBERによるTLR3シグナルの活性化がEBV感染胃がん細胞の増殖を促進していることが明らかとなり、TLR3シグナル活性化がEBV 陽性胃がんの発生に寄与していることを示唆する結果が得られることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、EBV陽性胃がん細胞において、細胞から放出されたEBERによるTLR3シグナル活性化が起こっているかどうか、それがIGF1誘導に関与しているかどうかなどをまず明らかにすることであるが、現在までの研究で、EBV陽性胃がん細胞から培養上清中へのEBERの放出の有無の確認とその定量はなされている。また、EBERが胃がん細胞のTLR3シグナルを誘導するかどうかについても詳細な解析を行い、EBERによるTLR3シグナル活性化がIFNやサイトカインの産生を誘導すること、さらに胃がん細胞の増殖因子であるIGF1の産生も誘導することを示す結果を得ている。一方EBERの細胞外への放出機構に関して、現在までにEBERがその細胞内結合蛋白質に依存して胃がん細胞より放出されていることを示す結果が得られている。以上の状況から、本研究の目的の達成度は概ね計画通りであると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
EBERによるTLR3シグナル活性化がIGF1産生を誘導することを踏まえ、TLR3シグナル活性化がEBV陽性胃がん細胞の増殖に寄与するか否かについて検証を行う。さらにTLR3のsiRNAを用いたknock-down法などでIGF-1の産生を抑えることにより、EBV陽性胃がん細胞の増殖が抑制されるかどうかについても解析を行う。さらにEBERによるTLR3活性化によって他のサイトカインの産生の誘導もおこるか否かを調べ、それがEBV陽性胃がん細胞の増殖において何らかの役割をはたしているかについて明らかにする。それらの結果をもとに、TLR3シグナル阻害によるEBV陽性胃がん細胞の増殖抑制効果について検討する。 また、EBERの細胞外への放出機構に関して、エクソソームとの関連について調べる。具体的には、培養上清よりエクソソームを分離し、EBERが存在するかどうかを検証するとともに、EBERが存在した場合、エクソソームによる細胞刺激実験を行い、TLR3シグナルの活性化がおこるかどうか、あるいはIGF1産生誘導がおこるか否かについて検証する。それらの検証により、エクソソームを介して分泌されるEBERのEBV陽性胃がん細胞における役割を明らかにすることが出来ると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
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