EBウイルス(EBV)が胃上皮細胞に感染すると、EBVのnon-coding RNAであるEBERによりIGF1の発現が誘導され、感染細胞の増殖が促進される。本研究は、EBERによるIGF1の発現誘導機構の解明を通じ、EBVによる胃がんの発生のメカニズムを明らかにすることを目的とし行っている。これまで我々は、EBERがウイルスRNA認識分子であるRIG-Iを活性化、I型インターフェロンやサイトカインの産生を誘導することを明らかにした。また我々は、EBERがEBウイルス感染細胞より細胞外に放出され、それがTLR3を介したシグナル伝達を惹起することを見出し、このEBER によるTLR3シグナルの活性化は伝染性単核症や慢性活動性EBV感染症、EBV関連血球貪食症候群の発症に寄与している可能性があることを明らかにした。 さらにEBERはEBV感染胃がん細胞からも放出され、それがTLR3シグナルの恒常的な活性化を誘導していること、そしてこのTLR3シグ ナルの活性化がEBERによるIGF-1産生誘導に関与しているということがわかった。さらにその後の解析で、EBV感染胃がん細胞から放出されるエクソソームにEBERが含まれていること、このエクソソームの取り込みにより惹起されるシグナル伝達が細胞増殖を促進していることが明らかになった。 一方我々は、EBVが上皮細胞に感染すると、足場消失に伴い誘導されるアポトーシス(anoikis)に対する抵抗性が賦与されることを見出した。さらにこのメカニズムに関して、EBVの膜蛋白質LMP2Aが惹起する細胞内シグナル伝達によるERKの活性化がanoikis誘導因子であるBimを抑制することによっておこっているということを明らかにした。
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