研究課題/領域番号 |
23590910
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今谷 晃 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30333876)
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キーワード | 胃 / 分化 / 発現制御 / Helicobacter pylori |
研究概要 |
胃上皮細胞においてH.pylori感染により慢性胃炎・萎縮がおこり腸上皮化生が進展し、この過程で胃癌が生じると考えられている。この分化変更過程で、幹細胞維持に重要なHomeobox遺伝子Sox2からCdx2に発現変更が生じる。一方でNotch1遺伝子は幹細胞維持に必須の遺伝子で、その発現異常は癌幹細胞を誘導し発癌に関与する。そこで、Sox2からCdx2発現幹細胞への再プログラム化に絞り込んだ、Notch1に関連した癌幹細胞を誘導する遺伝子を、Microarray解析を用いて同定することを目的として研究を展開している。 Notch1は、ヒト正常胃粘膜組織の固有胃腺において、主細胞と壁細胞で発現し、胃の分化成熟に関与し、その下流にある転写因子Hes1も一致して発現していた。 胃培養細胞を用いた研究結果より、H.pylori刺激により、Notch1、Dll1、Sox2、ATPaseの発現が有意に抑制された。さらにNotch1siRNAを用いたRNA干渉法により、Sox2の発現は抑制された。しかしながら、Sox2はNotch1の発現調節には関与していないことが、Microarray法とSox2siRNAを用いたRNA干渉法より明らかとなった。このため、H.pylori感染によるNotch1発現抑制がSox2の発現抑制を介して発癌母地となる胃粘膜萎縮に関与していることが示唆された。また、このNotch1の発現抑制は、FACS解析よりアポトーシスの誘導を抑制することより、発癌機序に関与していることを明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H.pylori感染による萎縮・腸上皮化生進展過程における胃癌の分子生物学的発癌機序として、H.pylori感染によりNotch1遺伝子の発現が抑制され、その下流のHes1発現が影響を受け、胃分化に重要なSox2遺伝子が抑制されることを明らかにできた。さらにNotch1の発現抑制がアポトーシス抑制を介して発癌に関与していることが類推できた。また、Notch1の発現抑制がどのように癌幹細胞誘導に関連した遺伝子に影響しているかという今後の研究の方向性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
Notch1がSox2の発現制御をしていることが示唆されたため、昨年度実施したMicroarrayの結果を踏まえて、Notch1/Sox2細胞内シグナル伝達機構を同定し、そのシグナル異常がどのように癌幹細胞を出現させ、胃癌発癌機序に関与しているか明らかにする。さらにヒト胃癌組織を用いて、実際のヒト胃癌発癌機構にどのように関与しているか確認し、胃癌の診断や創薬の基盤となるように研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
Microarrayの結果を踏まえたNotch1/Sox2細胞内シグナル伝達機構を解明する目的で、定量的PCR法、western blot法、luciferase assay法、RNA干渉法等の分子生物学的実験を行うための試薬を購入する。また、ヒト胃癌組織に対する免疫組織学を行うために、抗体を含めた試薬を購入し、研究費を使用予定である。上記の予定で、次年度使用額は、当初計画していたNotch1/Sox2細胞内シグナル伝達機構の解析の一部を次年度に延期することによって生じたものであり、一部延期したNotch1/Sox2細胞内シグナル伝達機構解明に必要な経費として平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。
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