研究課題/領域番号 |
23590911
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大野 秀樹 東京大学, 医科学研究所, 助教 (30396866)
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キーワード | ヘリコバクター・ピロリ / 除菌 |
研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリ除菌による胃癌予防効果が示され、今後除菌患者は増加すると予想される。しかし、除菌後も発癌のリスクは残るとされるが、除菌後胃癌の病態については不明な点が多い。本研究は除菌後胃癌発症の病態解明を目的とし、除菌による臨床症状や内視鏡所見の変化、胃粘膜の遺伝子発現異常等について解析を行い、除菌後胃癌の発症のリスク評価に有用なバイオマーカーを提示することを目的としている。 まず、当院のピロリ菌専門外来受診者において、日本ヘリコバクター学会ガイドラインに基づきヘリコバクター・ピロリ感染検査を施行し、除菌治療の結果を集計した。集計結果は、1次除菌成功率80.8%であり2次除菌成功率90.0%であった。除菌前後で上部消化管内視鏡検査を施行された患者において、萎縮境界変化の他、生検検体を用い炎症性変化や腸上皮化生の有無についての病理学的検討を行った。その結果、1~2年程度の期間では炎症所見は改善するものの萎縮所見や腸上皮化生については有意な変化は認められなかった。その他、胃粘膜臨床検体も引き続き収集し、マイクロRNA等の遺伝子発現解析を継続した。なお、除菌後胃癌の発症はこれまでのところ認められなかった。 また、除菌後の胃酸分泌の回復が臨床症状に影響を及ぼす可能性について、Fスケール(Frequency Scale for the Symptoms of GERD )を用いて解析したが、Fスケール合計スコアは除菌前8.7±6.7 (mean±SD)であり、除菌成功後4.7±5.2へと有意に低下していた。症状別には、酸逆流関連症状スコアは除菌前後で4.5±3.6から2.9±3.5へ低下し、同様に運動不全症状スコアは4.1±3.5から1.8±2.1へ低下していた。この結果、胃炎患者における除菌後の胃酸分泌の回復は、短期間では消化器症状を増悪させないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はヘリコバクター・ピロリ感染者における除菌前後での胃粘膜の病態変化の解析を目的としている。まず、ヘリコバクター・ピロリ感染が疑われた患者に対しては、日本ヘリコバクター学会ガイドラインに基づき血清抗体、尿中抗体、尿素呼気試験、鏡検法、迅速ウレアーゼ試験を用いてヘリコバクター・ピロリ感染診断を行った。感染者に対して一次除菌はプロトンポンプインヒビター、サワシリン、クラリスロマイシンにより、二次除菌はプロトンポンプインヒビター、サワシリン、メトロニダゾールにより除菌治療を施行し、除菌判定として尿素呼気試験を行った。除菌治療の結果を集計したところ、1次除菌成功率80.8%であり2次除菌成功率90.0%であった。また、内視鏡検査にて除菌前後における胃粘膜萎縮や腸上皮化生について比較したが、1、2年程度の期間では炎症所見は改善するものの萎縮所見や腸上皮化生については有意な変化を認めなかった。なお、除菌後胃癌の発症はこれまでのところ認められなかった。また、除菌後の胃酸分泌の回復が臨床症状に影響を及ぼす可能性について、Fスケール(Frequency Scale for the Symptoms of GERD )を用いて検討したが、Fスケール合計スコアは除菌前8.7±6.7(mean±SD)であり、除菌成功後4.7±5.2へ低下した(p=0.005)。症状別には、酸逆流関連症状スコアは除菌前後で4.5±3.6から2.9±3.5へ低下し(p=0.046)、同様に運動不全症状スコアは4.1±3.5から1.8±2.1へ低下した(p=0.002)。これにより除菌による胃酸分泌の回復は短期間では症状を増悪させないことが明らかにされた。また、胃粘膜臨床検体も前年度に引き続き収集しRNA等の遺伝子発現解析を行なっており、次年度も継続して発現・機能解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
胃粘膜検体を用い、ヘリコバクター・ピロリ除菌前後での胃上皮におけるmRNAやmiRNAの発現変化を定量的PCRやマイクロアレイにより比較検討する。発現に有意差を認めた遺伝子については標的遺伝子をデータベースにより解析し、炎症、発癌に関連する可能性を有する遺伝子を中心に解析を進める。候補となるmiRNAとそのtarget geneの発現に関し胃癌、腸上皮化生粘膜、萎縮粘膜、正常粘膜との間でqRT-PCR、in situ hybidization、組織染色等を用い比較検討する。癌組織において有意な発現異常を認めたmiRNAと標的遺伝子については、その原因となり得る遺伝子変異、欠失、増幅の有無についてシークエンシングを行う。 また引き続き、上部消化管内視鏡検査を施行された患者では萎縮境界の変化の検討の他、生検検体を用い萎縮や腸上皮化生の有無についての病理学的検討を行う他、除菌に伴う臨床症状の変化も追跡する。
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次年度の研究費の使用計画 |
胃粘膜検体を用いて定量PCRなどを行い、ヘリコバクター・ピロリの感染者と非感染者間や除菌前後において遺伝子の発現変化を検討する。発現に有意差を認めた遺伝子については炎症、発癌等に関連する可能性を有する遺伝子を中心に解析を進める。また、これらの遺伝子について発癌機構への影響の有無について明らかにするために、胃癌上皮細胞株に候補遺伝子を発現させ細胞機能の変化を検討する。同様に標的遺伝子が同定されれば、その遺伝子についても除菌後の胃粘膜における発現変化の検討を行う。 その他、除菌後の内視鏡検査による萎縮性胃炎や腸上皮化生の病理学的所見の変化、また臨床症状の変化について集計し統計学的解析を行う。
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