研究課題/領域番号 |
23590917
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
石村 典久 島根大学, 医学部, 講師 (40346383)
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研究分担者 |
天野 祐二 島根大学, 医学部, 准教授 (80284032)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | バレット食道 / シグナル伝達 / Notch / Cdx2 |
研究概要 |
私共はこれまでに食道扁平上皮の恒常性維持におけるNotchシグナルの意義について検討をおこなってきた。今年度の検討では、バレット食道形成に重要な因子として考えられているCdx2の発現とNotchシグナルの相互作用に着目し、以下の知見を得た。1. 胃酸・胆汁酸刺激によるNotchシグナル-Cdx2の発現変化バレット食道を誘導する因子として胃酸・胆汁酸の重要性が指摘されている。これらの因子によってNotchシグナルおよびCdx2発現にどのように影響を与えているかについて食道腺癌細胞株及び食道扁平上皮細胞株を用いて検討した。まず種々の胆汁酸(デオキシコール酸、コール酸、ウルソデオキシコール酸)刺激によるNotchシグナル(Notch-1、Hes-1、Atoh1)およびCdx2、MUC2の発現をmRNAレベル、蛋白レベルで解析し、これらの発現が酸条件下で変化するかどうかについても評価した。胆汁酸刺激によってCdx2は著明な発現亢進を示し、Notchシグナルに関しては、Hes-1の発現低下とAtoh1の発現亢進が認められた。デオキシコール酸はコール酸に比して強い発現変化を示したが、酸条件下では中性条件下に比して有意な変化を認めなかった。2. Cdx2発現変化によるNotchシグナル調節機構食道腺癌細胞株に遺伝子導入を行い、Cdx2を発現調節した系を作成した。まず、Cdx2の発現ベクターを導入し、発現亢進した系でNotchシグナルの発現を検討するとNotch-1の発現には影響を与えず、Hes-1の有意な発現低下とAtoh1の発現亢進を認めた。次にCdx2 siRNAを導入し、発現抑制した系を用いて検討すると、胆汁酸投与によるNotchシグナルの発現変化が抑制され、Notchシグナルの誘導にCdx2が密接に関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cdx2はバレット食道の腸上皮化生の誘導に最も重要な因子のひとつであることがこれまでの報告で示されているが、Cdx2が発現調節している種々のシグナル伝達の詳細についてはまだ十分明らかとなっていない。一方、Notchシグナルは腸上皮の分化誘導に重要な因子であり、Notchシグナルの異常は腸上皮の恒常性維持に破綻をきたし、様々な障害を引き起こす。われわれは前年度までの研究において、食道扁平上皮の恒常性維持にNotchシグナルが重要な役割を示すことを明らかとした。今回の研究の目的はバレット食道形成過程におけるこれら因子の相互作用を明らかにすることにある。 まず、胆汁酸の投与がCdx2の発現変化を誘導するとともに、Notchシグナルにも影響を与えることを示した。ただし、酸条件下での検討では、様々な炎症性シグナルの誘導によってNotchシグナルも影響を受けるため、酸暴露の時間などの条件設定について、再評価が必要である。 さらにCdx2の発現調節によって、Notchシグナルに大きく影響することが明らかとなった。私共はCdx2の発現亢進した系(gain of function)及び発現低下をした系(loss of function)の安定した条件での解析を可能とした。これらの系でNotchシグナルの変化を検討したところ、Cdx2の発現変化によってもNotch-1(レセプター)の発現には影響を与えず、下流の分子であるHes-1を低下させることを示した。すなわち、Cdx2はNotchレセプターに依存せず、下流であるHes-1に直接影響を与えている可能性を示した。 このように実施計画に基づいて、NotchシグナルとCdx2の相互作用についての検討は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討でCdx2発現変化によるNotchシグナルの影響が明らかとなったが、Notchシグナルの発現変化によるCdx2の影響についてはまだ十分評価できていない。そこで今後以下の検討を推進する予定である。 NotchシグナルはJagged-1などのリガンド刺激以外に、種々の炎症・増殖シグナル(TNF-alpha、IL-6、TGF-betaなど)やROSによっても影響を受け、下流のシグナルを誘導する。そこで、Notchシグナルをこれらのシグナルおよびγ-セクレターゼ阻害薬を用いた発現亢進および発現抑制系を作成し、Cdx2発現の影響を評価する。食道腺癌培養細胞株(OE-19、OE-33)を用いて、Notchリガンド(Jagged-1)投与によって、Cdx2及びMUC2の発現に変化がみられるかどうかをmRNA、蛋白レベルで評価を行う。さらにγセクレターゼ阻害薬によってNotchシグナルをブロックした際の下流シグナルおよびCdx2の発現変化を同様に評価する。これらの検討からNotchシグナルがCdx2発現にどのように影響を与えているかどうか考察を加える。 続いて、バレット食道の組織型(胃型・腸型粘膜)におけるNotch-Cdx2発現調節機構について解析を進める。バレット食道はムチン形質の違いによって大きく胃型(MUC5AC優位)と腸型(MUC2優位)に分けられる。胃型と腸型のバレット食道におけるNotch-Cdx2の発現状況について免疫染色を用いて評価を行う。本邦で頻度の多い胃型のバレット食道ではCdx2の発現は低いが、Notchシグナルの発現状況については十分評価されていない。これらの解析によって、胃型・腸型のバレット食道におけるNotchシグナルとCdx2の発現変化の違いから、それぞれのバレット食道形成におけるNotch-Cdx2の相互作用を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に引き続き、次年度も培養細胞を用いた検討が主体となる。免疫染色用抗体、細胞維持用の試薬、PCRおよびWestern blotに用いる各種試薬、抗体などが主な研究費支出となる。培養細胞として食道腺癌細胞株(OE-19、OE-33)を用い、これらの細胞を維持しながら、Notchシグナルを亢進および低下させるための系を樹立する。Notchシグナルの亢進には、NotchリガンドであるJagged-1を用いる予定で、さらにNotchシグナルに影響を与える炎症性サイトカイン(TNF-alpha、IL-6)についても使用を検討する。またNotchシグナルの抑制にはγセクレターゼ阻害剤であるDAPTを用いる。Notchシグナルの下流の因子としてはHes-1及びAtoh1の発現をPCRおよびWestern blotで評価し、Cdx2および腸上皮化生のマーカーであるMUC2の発現も同様に評価する。またバレット食道標本を用いた免疫染色では胃型および腸型のムチン形質を免疫染色で評価するとともに、Notchシグナル関連因子(Hes-1、Atoh1)、Cdx2の免疫染色も行う。研究が順調に進めば、バレット食道モデルラット(食道空腸吻合)を用い、NotchシグナルとCdx2の発現状況についても解析を行う予定とする。 これらの研究を進めていくための情報収集として国内の学会への参加や各種資料の収集も必要となるため、これらの支出も予定する。
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