本研究の目的はバレット食道の形成に重要な因子と考えられているCdx2の発現とNotchシグナルの相互作用について明らかにすることである。今年度はNotchリガンドであるDll-1がバレット食道形成に関連する因子に与える影響に着目し、以下の知見を得た。 1. 胆汁酸刺激によるDll-1発現変化 これまで、培養細胞として食道腺癌細胞株(OE-33、OE-19)を中心として検討していたが、バレット食道細胞株(CP-A)を入手し、Dll-1の発現を評価した。これまでの結果と矛盾なく、胆汁酸(DCA 200 microM)投与によって蛋白レベル、mRNAレベルでDll-1の著明な発現亢進を確認した。一方、Cdx2 siRNAを導入したCP-Aに胆汁酸刺激を行うと、Dll-1の発現誘導が著明に抑制されることから、胆汁酸によるDll-1の誘導はCdx-2依存的であることが示された。 2. Dll-1遺伝子発現調節によるNotchシグナル-Cdx2発現への影響 Dll-1発現ベクターを作成し、食道扁平上皮株(Het-1A)に導入すると、Cdx-2の発現の亢進を認めた。また、Hes-1の下流因子であるATOH-1にも発現亢進がみられた。一方で、Dll-1 siRNAによってDll-1の機能を抑制するとATOH-1の著明な低下を認めたものの、Cdx2およびMUC2の発現変化は著明ではなかった。このことから、Dll-1の発現亢進はATOH-1を誘導し、Cdx2の発現に影響を与えるものの、Cdx2の発現にはNotchシグナル以外の複数の発現調節もなされていることが示された。 以上の点から、Barrett食道形成におけるCdx2の発現とNotchリガンドDll-1の相互作用が食道扁平上皮から杯細胞を有する特殊円柱上皮化生への分化を誘導する重要な因子であることが示された。
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