研究課題
本研究は、下記の2つの命題について、ヘリコバクター菌感染による胃癌マウスを用いて、解析することを主眼としている。A.ヘリコバクター菌感染による胃発癌における、骨髄由来細胞の役割を明らかにする。B.ヘリコバクター菌感染による胃発癌における、インターロイキン17の役割を明らかにする。 初年度である平成23年度は、主にAについて、研究協力者であるコロンビア大学医学部消化器内科Timothy Wang教授の支援を得て、研究を行った。胃癌マウスを致死量の放射線で照射した後で、以下の複合トランスジェニックマウスの骨髄細胞を移植することにより、胃癌マウスの骨髄細胞を蛍光色素でラベルされた骨髄細胞で置き換える。そして、このマウスの胃癌組織内に含有される骨髄由来の間質細胞を、フローサイトメーターや接着性細胞培養の技術により分離・増幅することにより、in vitroでの解析ができるようにした。 ここで用いたトランスジェニックマウスは、(1) Collagen Iプロモーター下にEGFPを高発現するマウス (2) alpha-Smooth-Muscle Actinプロモーター下にRFPを高発現するマウス、の両者を掛け合わせたものである。従って、胃癌組織(および正常胃組織)において、a) EGFP・RFP共陽性細胞は筋線維芽細胞、b) EGFP陽性RFP陰性細胞は通常の線維芽細胞、c) EGFP陰性RFP陽性細胞は主に血管平滑筋細胞、を示していると考えられる。 胃癌組織から分離・培養した、上記a) b) c) の各々の分画を培養プレートの底面に付着・増殖させ、その上に牛胎児血清含有マトリジェルを敷き詰め、さらにその上にヒト胃癌培養細胞(AGSなど)を付着・増殖させ、3層による3次元細胞組織培養を行った。その結果、最下層がa)のときのみ、最上層の胃癌細胞が中間層に浸潤して来ることが判明した。
4: 遅れている
前述の「研究実績の概要」にも記したとおり、本研究は2つのテーマからなるが、今年度はテーマAの一部を遂行したのみである。テーマAのうち、胃癌マウスの癌組織から得られた筋線維芽細胞や線維芽細胞の、in vitroの解析は施行済みであるが、in vivoの解析および間質細胞以外の成分、とりわけCD45陽性な血球系細胞(リンパ球・マクロファージなど)の性状・機能解析は未着手である。 テーマBについては全く手が付けられておらず、これを遂行するために、研究協力者である、東京大学医科学研究所・岩倉洋一郎教授から、下記3種類のノックアウトマウスを一部譲渡して頂き、ヘリコバクター感染胃癌マウスと交配させる予定である。a) IL-17A KOマウス b) IL-17F KO マウス c) IL-17A-IL-17F Double KO マウス。(譲渡については同意取得済み) 研究代表者は、今年度年初に、科研費申請時の所属先であった九州大学大学院医学研究院グローバルCOE幹細胞研究センターから、学内に新設された九州大学先端医療イノベーションセンターに配置換えとなった。新しいセンターは、平成22年度秋に設立されたばかりであり、事務部門も含めた新体制の陣容が固まるまでかなりの時間を要した。加えて、九州大学大学院医学研究院から独立した組織であるため、動物実験施設は医学研究院付属のものを使用せざるを得ず、その許可取得の手続きや審議にかなりの手間と時間を要することとなった。 また、「国際情報交流」による研究とはいえ、一部の研究試料(実験動物を含む)は、海外からの運搬・輸送が必要であり、検疫等に手間と時間を要することが、研究遂行上での障害である。
前述の「現在までの達成度」にも記したとおり、テーマAのうち胃癌マウスの癌組織から得られた筋線維芽細胞や線維芽細胞の、in vivoの解析および間質細胞以外の、CD45陽性な血球系細胞(リンパ球・マクロファージなど)の性状・機能解析が未着手であるため、これらについて充当されるべき経費は、次年度に使用する予定である。 テーマBについての研究を遂行するために必要な、3種類のノックアウトマウスa) IL-17A KOマウス b) IL-17F KO マウス c) IL-17A-IL-17F Double KO マウスの、研究協力者(東大・岩倉教授)からの譲渡は、本来、今年度中に完了している予定であったが、次年度にずれ込んだため、その運搬や九大での繁殖・コロニー維持に関わる費用は、次年度に繰り越されることとなった。 本研究で使用する胃癌マウスは、申請書に記載した研究協力者であるコロンビア大学医学部消化器内科Timothy Wang教授が作製または所有する、トランスジェニックマウスHKATP-hIL-1b およびヘテロノックアウトマウス Smad4+/- を掛け合わせたものである。しかし、このマウスは胃癌発症までに約1年間を必要とし、研究を進展させるにはやや時間がかかるのが難点である。そこで今回、新たな研究協力者として、金沢大学・がん進展制御研究所・腫瘍遺伝学研究分野・大島正伸教授に加わって頂き、ご自身が作製・開発された、自発的に胃炎を惹起し、約8か月という比較的短期間に胃癌を発症する、複合トランスジェニックマウス K19-Wnt1/C2mEマウス(通称Ganマウス)も、本研究の実験材料として加える予定である。(大島教授の同意取得済み)
前述の「今後の研究の推進方策」にも記したとおり、次年度はテーマAの残りの部分、すなわち胃癌マウスの癌組織から得られた筋線維芽細胞や線維芽細胞のin vivoの解析と、CD45陽性な血球系細胞(リンパ球・マクロファージなど)の性状・機能解析を中心に、研究を進めてゆく。加えて、テーマBの胃発癌におけるインターロイキン17(IL-17)の機能解析に関して、申請書に記載した研究協力者の東大・岩倉教授から、3種類のノックアウトマウスa) IL-17A KO, b) IL-17F KO, c) IL-17A-IL-17F Double KO を譲渡して頂き、これらを胃癌マウスと交配させる。 胃癌マウスとしては、申請書に記載した研究協力者である、コロンビア大学医学部消化器内科Timothy Wang教授が作製または所有する、トランスジェニックマウスHKATP-hIL-1b およびヘテロノックアウトマウス Smad4+/- を掛け合わせたものを用いるが、このマウスは胃癌発症までに約1年間を必要とすることが、研究を進展させるうえで不便である。 そこで今回、新たな研究協力者として、金沢大学がん進展制御研究所大島正伸教授に加わって頂き、ご自身が作製・開発された、約8か月という比較的短期間に胃炎と胃癌を発症する、複合トランスジェニックマウス K19-Wnt1/C2mEマウス (通称Ganマウス) も、本研究の対象に加えることとし、骨髄由来細胞の役割やIL-17の機能解析に使用することを計画している。
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