研究課題
本研究は、大別して下記の2つの命題について、ヘリコバクター菌感染による胃癌マウスを用いて、解析することを主眼としている。A.ヘリコバクター菌感染による胃発癌における、骨髄由来細胞の役割を明らかにする。B.ヘリコバクター菌感染による胃発癌における、IL-17の役割を明らかにする。第2年度である平成24年度は、第1年度に続いて、研究協力者であるコロンビア大学医学部消化器内科TIMOTHY WANG教授の支援を得て、研究を行った。特にヘリコバクター菌感染によるマウスの胃発癌のメカニズムを解析すること、そして、より早期かつ効率的に胃発癌を生じるマウスモデルを確立することを主眼において、研究を進めた。具体的には、以下の2種類のトランスジェニックマウスにヘリコバクター菌を感染させて胃粘膜の変化を経時的に観察した:(1) ヒトプロガストリン高発現マウス(HGASマウス (2)ヒトアミド化ガストリン高発現マウス(INS-GASマウス)。その結果、(1)に関しては、胃前庭部において胃発癌が促進されて、約10-12ヶ月で早期に腫瘍が形成されたが、胃体部においては逆に胃発癌が抑制された。(2)に関しては、(1)とは反対に、胃体部において胃発癌が促進されるが、胃前庭部においては逆に胃発癌が抑制されることが判明した。また、細胞のストレス負荷のマーカーであり、発癌への関与が多臓器で報告されているHSPA5, XBP1, CHOPなどの遺伝子が、胃癌部において高発現していることが判明した。
4: 遅れている
前述の「研究実績の概要」にも記したとおり、本研究は2つのテーマからなるが、今年度はこれらのテーマの一部を遂行したのみである。テーマAに関しては、種々の遺伝子改変マウスにヘリコバクター菌を感染させて、より効率的かつ早期に胃発癌を生じるマウスモデルを確立しつつある。テーマBに関しては、研究協力者である東京理科大学・岩倉洋一郎教授(元・東京大学医科学研究所教授)から、下記3種類のノックアウトマウスを一部譲渡して頂き、胃発癌マウスと交配させる予定である。a) IL-17A KOマウス b) IL-17F KO マウス c) IL-17A-IL-17F Double KO マウス。(譲渡については同意取得済み)研究代表者は、科研費申請時の所属先であった九州大学大学院医学研究院グローバルCOE幹細胞研究センターから、平成23年度に学内に新設された九州大学先端医療イノベーションセンターに配置換えとなった。このセンターは平成23年7月に竣工し、事務部門も含めた新体制の陣容が固まるまでかなりの時間を要した。加えて、九州大学大学院医学研究院から独立した組織であるため、動物実験施設は医学研究院付属のものを使用せざるを得ず、その許可取得の手続きや審議にかなりの手間と時間を要することとなった。また、「国際情報交流」による研究とはいえ、一部の研究試料(実験動物を含む)は、海外からの運搬・輸送が必要であり、検疫等に手間と時間を要することが、研究遂行上での障害である。
前述の「現在までの達成度」にも記したとおり、テーマAに関しては、ヘリコバクター菌感染による胃発癌マウスへの、GFP等の蛍光物質でラベル化された骨髄細胞の移植を今後行う予定であり、これらについて充当されるべき経費は次年度に使用する予定である。テーマBに関しては、3種類のノックアウトマウスa) IL-17A KOマウス b) IL-17F KO マウス c) IL-17A-IL-17F Double KO マウスを、研究協力者である東京理科大学・岩倉洋一郎教授から譲渡して頂くこととなっている。これらのマウスの搬入は、本来平成24年度中に完了している予定であったが、九州大学大学院医学研究院附属動物実験施設の実験計画承認およびマウス搬入許可が遅れたため、マウスの運搬や九大での繁殖・コロニー維持に関わる費用は、次年度に繰り越されることとなった。本研究で使用する胃癌マウスは、申請書に記載した研究協力者であるコロンビア大学医学部消化器内科Timothy Wang教授が作製または所有する遺伝子改変マウスである。しかし、このマウスは胃癌発症までに約1年間を必要とし、研究を進展させるにはやや時間がかかるのが難点である。そこで新たな研究協力者として、金沢大学がん進展制御研究所腫瘍遺伝学研究分野・大島正伸教授に加わって頂き、ご自身が作製・開発された、自発的に胃炎を惹起し、約8か月という比較的短期間に胃癌を発症する、複合トランスジェニックマウス K19-Wnt1/C2mEマウス(通称Ganマウス)も、本研究の実験材料として加える予定であるが(大島教授の同意取得済み)、九州大学大学院医学研究院附属動物実験施設の実験計画承認およびマウス搬入許可が遅れたため、このマウスの搬入も次年度に持ち越されることとなった。
前述の「今後の研究の推進方策」にも記したとおり、テーマAに関しては、ヘリコバクター菌感染による胃発癌マウスをレシピエントとして、また、GFP等の蛍光物質でラベル化された骨髄細胞をドナーとして用いることにより、骨髄移植を今後行う予定である。テーマBに関しては、ヘリコバクター菌感染による胃発癌マウスにおけるIL-17AやIL-17Fの機能解析に関して、申請書に記載した研究協力者の東京理科大学・岩倉教授から、3種類のノックアウトマウスa) IL-17A KO, b) IL-17F KO, c) IL-17A-IL-17F Double KO を譲渡して頂き、これらを胃癌マウスと交配させる。胃癌マウスとしては、申請書に記載した研究協力者である、コロンビア大学医学部消化器内科Timothy Wang教授が作製または所有する遺伝子改変マウスを使用する予定であるが、これらのマウスは胃癌発症までに約1年間を必要とすることが、研究を進展させるうえで不便である。そこで今回、新たな研究協力者として、金沢大学がん進展制御研究所大島正伸教授に加わって頂き、ご自身が作製・開発された、約8か月という比較的短期間に胃炎と胃癌を発症する、複合トランスジェニックマウス K19-Wnt1 /C2mEマウス (通称Ganマウス) も、上記a)-c)のノックアウトマウスと交配させて、胃粘膜の変化を経時的に比較しながら観察することにより、これらのサイトカインの胃発癌の進展における役割を解析する予定である。
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