研究課題
我々は、研究目的である組織幹細胞および癌幹細胞の腸型化のメカニズムを解明するため、平成24年度は以下のような研究を行った。1.マウス胃固有腺管・大腸腺管の3次元培養系:我々は、生後1~2日のマウス(C57BL/6J)から腺胃を取り出し1mm未満の切片に分断してコラーゲンゲルで培養する3次元培養系を確立し、英語論文を作成した(Biochem Biophys Res Commun., 432, 558-563, 2013.)。この3次元培養系では、約2か月間の長期の胃腺管培養が可能であり、これまでの報告(長くて2週間程度)を大幅に更新した。また、この胃培養腺管は、免疫組織化学染色で胃型マーカーのMUC5ACが陽性、かつ腸型マーカー(MUC2など)はすべて陰性であり、電子顕微鏡での知見(microvilliやグリコーゲン顆粒の存在など)も含めて完全に胃固有腺管の形質を示している。また、腺管の一部には内分泌細胞マーカーのクロモグラニンA陽性細胞が存在し、病理学的にも腺腔構造を有している。加えて、腺腔の周りには繊維芽細胞を含めた間質組織も存在する。現在、この胃の培養腺管を用いて、研究計画調書記載の分子生物学的実験を含めた検討を進めている。また、我々は上記の方法でマウス大腸腺管の3次元培養系も確立しており、こちらも用いて前述の胃培養腺管との比較実験を行っている。2.スナネズミモデル:胃の腸型化を考える上でHelicobacter pylori感染スナネズミモデルは有用な実験系である。我々は、現在スナネズミモデルへの上記1.の応用を試みている。スナネズミの腺胃から取り出した胃培養腺管にHelicobacter pyloriを作用させ3次元培養系で胃から腸(腸上皮化生発生)への形質転換を再現できれば、腸型化のメカニズムに迫れると考えている。以上が平成24年度の研究実績である。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度の研究計画調書記載内容と照らし合わせた研究の進行度は、以下の如くである。まず、「研究業績の概要」で記載した如く、「1.マウス胃固有腺管・大腸腺管の3次元培養系」に関しては、英語論文を作成し、「2.スナネズミモデル」への応用を進めている。3.胃型形質発現胃癌細胞株を用いたWnt シグナル関連因子強発現下での粘液形質の胃型から腸型への分化誘導と増殖に関与する因子の特定:胃型形質発現胃癌細胞株をWnt シグナル関連因子(beta-catenin 、GSK-3beta、LEF/TCF、Prop1、 Musashi-1)などで刺激する実験系で検討を行っている。この実験系で、胃の形質の保持に重要なSonic hedgehog (Shh)を作用させたところMUC6の発現が増加した。現在、同様の実験をマウス胃培養腺管でも進めている。4.腸型形質発現細胞株を用いたWnt シグナル関連因子RNAiノックダウン下での腸型粘液形質の変化と増殖に関与する因子の特定:現在、腸型形質発現胃癌細胞株およびマウス大腸培養腺管で、Wnt シグナル関連因子などのRNAiノックダウンの実験を進めているところである。5.ヒト胃癌組織での胃幹細胞および癌幹細胞の同定と胃型・腸型形質発現との関連性の検討:現在、ヒト胃癌組織(200例)で、消化管幹細胞マーカー(LGR5、Bmi1、Musashi-1など)の発現を主に免疫組織化学染色で検索している。上記の3.と4.については、上皮間葉相互作用(epithelial-mesenchymal interaction)の観点からの検索も重要と考えている。このため、マウス胃・大腸3次元培養系の上皮と繊維芽細胞を含めた間質組織のそれぞれの遺伝子発現にも注目して研究を進めている。以上より、区分は(2)と考えられる。
我々は、平成24~25年度の研究計画調書記載内容と照らし合わせて今後の研究の推進方策につき以下のことを考えている。3.胃型形質発現胃癌細胞株を用いたWnt シグナル関連因子強発現下での粘液形質の胃型から腸型への分化誘導と増殖に関与する因子の特定:胃癌細胞株での検索の他に、我々が確立したマウス胃3次元培養腺管およびスナネズミ腺胃3次元培養腺管でも検索を進める。この培養系腺管をR-spondin 1(腸分化促進因子)およびHelicobacter pylori標準株などで刺激し腸型化の有無を検索する。もし、腸型化が認められた場合は、Wnt シグナル関連分子などの発現状況を確認し、胃癌細胞株でのデータと照らし合わせて比較検討する。4.腸型形質発現細胞株を用いたWnt シグナル関連因子RNAiノックダウン下での腸型粘液形質の変化と増殖に関与する因子の特定:上記3.と同様に、胃癌細胞株での検索の他に、我々が確立したマウス大腸3次元培養腺管でも検索を進める。「現在までの達成度」の欄でも記載した通り、上記の3.と4.については、上皮間葉相互作用の観点からの検索も重要と考え、マウス胃・大腸3次元培養系の上皮と繊維芽細胞を含めた間質組織のそれぞれの遺伝子発現にも注目して研究を進める予定である。5.ヒト胃癌組織での胃幹細胞および癌幹細胞の同定と胃型・腸型形質発現との関連性の検討:「現在までの達成度」の欄でも記載した通り、ヒト胃癌組織で、消化管幹細胞マーカーの発現を主に免疫染色で検索している。これらのマーカーの免疫染色をスナネズミ腺胃組織でも行い「6. スナネズミ胃癌組織での胃幹細胞および癌幹細胞の同定と胃型・腸型形質発現との関連性の検討」の研究も進める予定である。以上の各項目で得られた研究成果を総合的に評価し英語論文を作成する予定である(7. 英語論文作成)。
平成25年度の研究費の使用計画は以下のとおりである。まず、今後の推進方策で述べた、「3.胃型形質発現胃癌細胞株を用いたWnt シグナル関連因子強発現下での粘液形質の胃型から腸型への分化誘導と増殖に関与する因子の特定」、「4.腸型形質発現細胞株を用いたWnt シグナル関連因子RNAiノックダウン下での腸型粘液形質の変化と増殖に関与する因子の特定」、「5.ヒト胃癌組織での胃幹細胞および癌幹細胞の同定と胃型・腸型形質発現との関連性の検討」、「6. スナネズミ胃癌組織での胃幹細胞および癌幹細胞の同定と胃型・腸型形質発現との関連性の検討」、「7. 英語論文作成」、の実験を遂行するため各種薬品(各種抗体、PCR関連試薬、ウェスタン解析関連試薬、等)、病理組織および細胞培養関連およびプラスチック器具などを購入する予定である。各種抗体としては、LGR5(Abgent)、Bmi1(Cell Signaling Technology)、Musashi-1(Cell Signaling Technology)、MUC5AC(Novocastra Laboratories)、MUC6(Novocastra Laboratories)、MUC2(Novocastra Laboratories)、villin(Transduction Laboratories)、Sox2(Chemicon)、Cdx1(Abcam)、Cdx2(BioGenex)、Mib1(Abcam)などを購入予定である。また、学会(日本消化器病学会、日本消化管学会など)での研究成果の発表や外国語論文の校閲および研究成果の英語雑誌への投稿なども行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 432 ページ: 558-563
10.1016/j.bbrc.2013.02.051.
Clin J Gastroenterol.
巻: 5 ページ: 302-306