研究課題/領域番号 |
23590933
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平田 喜裕 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10529192)
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研究分担者 |
大塚 基之 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90518945)
山田 篤生 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80534932)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 微生物 / 免疫学 |
研究概要 |
本研究では腸管免疫の制御機構について、細菌の認識に関与する上皮細胞と樹状細胞の役割と相互作用の検討を目的として、上皮および樹状細胞に特異的な遺伝子制御マウスを用いてそれぞれの細胞の細胞内シグナルが常在菌や病原性細菌の認識や免疫応答に果たす役割を検討している。H23年度は、上皮細胞特異的炎症性シグナルノックアウトマウスとして、Sakamotoらの報告によるFoxa-creマウスとIKKbのコンディショナルノックアウトマウスであるIKK F/Fマウスを交配し、上皮特異的IKKノックアウト(Foxa-IKK)およびコントロールマウス(IKK F/F)を作出した。これらのマウスを用いて病原体に対する上皮細胞と樹状細胞の相互作用を明らかにするために、マウスの病原性大腸菌であるCitrobacter rodentiumを感染させた。感染後4/8/16日後の糞便中細菌数(log CFU/g)は、7.0 vs 7.6/ 8.1 vs 8.8/ 7.4 vs 7.6 (IKK F/F vs Foxa-IKK)であり、上皮細胞特異的ノックアウトでやや細菌数の増加を認めたが、統計学的に有意ではなかった。大腸病理所見においても炎症細胞浸潤や上皮細胞の肥厚もこれらのマウス間で有意な違いを認めなかった。またCitrobacter rodentiumに対する血清抗体価を測定し、IKK F/FマウスとFoxa-IKKマウスに有意差を認めなかった。続いて、大腸中のケモカインをRT-PCR法で測定した。CXCL1、CXCL2およびIL-1aの発現は上皮ノックアウト(Foxa-IKK)で半減していた。また免疫染色でマクロファージの浸潤が減少していた。一方樹状細胞の誘導因子であるCCL22の発現は有意な減少なく、樹状細胞の粘膜浸潤も減弱していなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で上皮細胞特異的なIKKbノックアウトマウスを樹立し、細菌感染性腸炎におけるそのシグナルの意義を検討できている。上皮細胞特異的なIKKbノックアウトマウスでは、Citrobacter rodentiumによる腸炎の悪化は認められなかったので、このマウスでみられたマクロファージ浸潤の減弱が、腸管免疫に与える影響は軽度であることが明らかになったと考えられる。さらに上皮細胞のIKKbノックアウトでは、樹状細胞浸潤がコントロールと同程度見られたことから、樹状細胞の浸潤における上皮の炎症性シグナルの影響も軽度であることが考えられる。樹状細胞特異的なノックアウトに関しても現在交配を開始しており、本年度には樹状細胞の腸管免疫における役割を検討できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は樹状細胞の機能を特異的に修飾するためにCD11cプロモーター下にcreリコンビナーゼを発現させるCD11c-creマウスを用いてコンディショナルノックアウトを作出する。免疫反応や発癌に重要なサイトカインであるTGFbの受容体のTGFbR2のコンディショナルノックアウトマウスであるTGFbR2 F/FマウスとCD11c-creマウスを交配し、CD11c-TGFbR2マウスを作出し、コントロールマウスと腸内細菌叢の構成、定常状態の大腸の組織所見を検討し、免疫寛容における樹状細胞の役割を検討する。腸内細菌叢の検討はマウス糞便よりDNAを抽出して細菌の16S rRNAのRT-PCRで行う。炎症細胞浸潤は昨年度と同様に免疫染色やフローサイトメーターで定量化する。さらにこれらのマウスにCitrobacter rodentiumを感染させ、腸炎における樹状細胞シグナルとその役割を明らかにする。また前年度の検討でFoxa-IKKマウスでIL-1aの発現が減弱していたが、IL-1aが腸管免疫および恒常性の維持に与える影響ははまだ不明である。そのためIL-1シグナルの血球および上皮における働きと腸管免疫について、IL-1aの受容体であるIL-1Rのノックアウトマウスを用いて検討を加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
すべて物品の購入費として使用する。マウスの維持費(飼料など)、野生型B6およびIL-1Rノックアウトマウスの購入、DNAの抽出やPCRなどの分子生物学試薬の購入、組織染色のための組織標本の作製、抗体などの購入費として使用する。
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