研究課題/領域番号 |
23590937
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
妹尾 浩 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90335266)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 自然免疫 / 炎症 |
研究概要 |
大腸には膨大な数の常在菌叢が存在し、自然免疫を介して恒常性維持に重要な役割を果たしている。近年、自然免疫の制御によって大腸癌進行が抑制される可能性が示され、注目を集めている。Growth arrest specific gene 6 (Gas6)は、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞で、Toll-like受容体を介したNF-kBの活性化を抑制し、過剰な自然免疫を制御する。本研究では、Gas6による大腸の自然免疫の抑制が大腸癌進行を抑制するか否かを、Gas6ノックアウト(Gas6 KO)マウスを中心として解析する。これにより、大腸癌の新規治療法開発への基礎的知見を得ることを目的とする。そのため平成23年度には、以下の研究を行った。1.Gas6 KOマウスへAOM/DSSを投与して炎症性腸発癌を作成し、腸腫瘍の数とサイズを検討した。その結果、Gas6 KOマウスではコントロール・マウスに較べて腸腫瘍の数が多かった。また、Gas6 KOマウス腸腫瘍から単離したマクロファージは、炎症性サイトカインを多く分泌していた。2.リコンビナントGas6投与によって、大腸癌培養細胞株の増殖は変化しなかった。上記1.の結果と総合すると、Gas6は癌細胞の増殖に直接の効果をもたず、腸管間質等における炎症を抑制して二次的に癌進展を抑制することが示唆された。3.Gas6 KOマウスと多段階腸発癌モデルであるApcMinマウスを交配し、次年度のGas6 KO; ApcMinマウス解析に備えている。4. 大腸癌患者手術標本を用いて、定量的RT-PCRおよび免疫染色によりGas6の発現を検討した。更なる症例の集積に努め、次年度以降の解析に備えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Gas6ノックアウト(Gas6 KO)マウスを用いた炎症性腸発癌モデルの解析を通じて、Gas6が生体腸管においては抗炎症および抗腫瘍効果をもつことを初めて示した。さらにヒト大腸癌細胞株に対するGas6の効果が、従来他の臓器の細胞種で報告されてきたよりも小さいことを示した。これら生体腸管と培養細胞系のデータを総合的に解析して、腸管においてはGas6が腫瘍細胞の増殖に直接の促進効果をもたず、腸管間質等における炎症を抑制して二次的に腸腫瘍の進展を抑制する可能性を示した。このことは、生体内では腸管内常在菌叢と間質の炎症細胞とのクロストークが、腸腫瘍の進展過程に大きく影響を及ぼすことを示唆するものである。さらに、腸腫瘍進展のメカニズムを解析するためには、上皮・間質のクロストークを考慮しなければ、誤った結論に至る危険性があるという、腸管固有の性質・注意点をも明らかにしたものである。このように申請者らは、計画初年度にして早くも大腸腫瘍の病態解明と新規治療法の開発へ繋がる重要な基礎的知見を得ることが出来た。したがって、本研究は平成23年度において、当初の計画通り、おおむね順調な進捗状況を示しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度には、炎症性腸発癌モデルを用いて、大腸癌の進展過程における間質の重要性を示した。今後は、同様の手法を用いて、多段階発癌のモデルであるApcMinマウスにおいても、腸管内常在菌叢と間質の炎症細胞とのクロストークが腸腫瘍の進展過程に影響を及ぼすか否かを検討する。これらの検討を通じて、ApcMinマウスにおける腸腫瘍進展の過程においても、腸内常在菌叢の解析や上皮・間質のクロストークを考慮しなければ、誤った結論に至る危険性があるか否かを検証する。そのため、平成24年度には、Gas6 KOマウスと ApcMinマウスの交配を行い、Gas6 KO; ApcMinマウスの作出を進める。これにより、次年度以降の多段階発癌におけるGas6の役割についての解析に備える。またこれらマウスや培養細胞株を用いた実験で得られたGas6の意義について、ヒト大腸癌においても検討を試みる。そのため、ヒト大腸癌患者手術標本を用いて、Gas6の発現と大腸癌間質に存在する諸因子との相関を検討する。これにより、ヒト大腸癌でもGas6が何らかの役割を果たしていることが確認されれば、Gas6に対する抗体医薬や核酸医薬、デコイ治療などの可能性について、ふたたび腸腫瘍モデルマウスや細胞株を用いた検討に入る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、平成23年度に得られた結果を基にして、以下の検討を行う。1.AOM/DSSを投与したGas6 KOマウスにおいて、樹状細胞の活性化やリンパ球の活性化に対するGas6の役割を検討する。2.平成24年度には、Gas6 KO; ApcMinマウスの解析が可能になる予定である。腸腫瘍の数、サイズ等を検討し、腫瘍に浸潤するマクロファージなどの免疫担当細胞の活性化をマウス腸管で検討する。さらに腫瘍に浸潤する単球系細胞を分離したex vivoの検討も併せて行う。これらの検討により、Gas6を介する自然・獲得免疫系の変動を検討し、Gas6の腫瘍進展に及ぼす影響を総合的に考察する。3.平成24年度中に、Gas6欠損がマウス腸管で炎症性発癌を促進するか、抑制するか、その概略を考察できる予定である。前者の場合はリコンビナントGas6を、後者の場合は抗Gas6中和抗体やGas6受容体デコイ(Axl-Fc decoy)等により、Gas6を標的とした腸腫瘍治療の可能性を探る。
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