研究課題/領域番号 |
23590937
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
妹尾 浩 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90335266)
|
キーワード | 大腸癌 / 自然免疫 / 炎症 |
研究概要 |
大腸には膨大な数の常在菌叢が存在し、自然免疫を介して恒常性維持に重要な役割を果たしている。近年、自然免疫の制御によって大腸癌進行が抑制される可能性が示され、注目を集めている。Growth arrest specific gene 6 (Gas6)は、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞で、Toll-like受容体を介したNFkBの活性化を抑制し、過剰な自然免疫を制御する。本研究では、Gas6による大腸の自然免疫の抑制が大腸癌進行を抑制するか否かを、Gas6ノックアウト(Gas6 KO)マウスを中心として解析する。これにより、大腸癌の新規治療法開発への基礎的知見を得ることを目的とする。そのため平成24年度には、以下の研究を行った。 1.平成23年度に引き続き、Gas6 KOマウスへAOM/DSSを投与して形成された腸腫瘍において、間質への浸潤細胞におけるSocs3は低下し、NFkBシグナルは亢進していることを確認した。これにより、Gas6が腫瘍局所に浸潤するマクロファージの活性化状態を抑制することを確認した。 2.平成23年度から作出を開始したGas6 KO; ApcMinマウスの腸腫瘍の数、サイズ等を組織学的に検討した。その結果、同マウスでは、腸腫瘍の数とサイズが増加することが確認された。 3.リコンビナントGas6投与によって、マクロファージからの炎症性サイトカイン分泌は亢進した。 4.大腸癌患者手術標本を用いて、Gas6の発現を検討した。定量的PCRおよび免疫染色によりGas6の発現を検討した。症例を前年度に加えて更に集積し、統計学的解析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Gas6 KOマウスを用いた炎症性腸発癌モデルおよび多段階腸発癌モデルの解析を通じて、Gas6が生体腸管において抗炎症および抗腫瘍効果をもつこと確認した。また、Gas6の作用標的が、上皮細胞ではなく、腫瘍間質に浸潤する炎症細胞、とくにマクロファージであること確認した。これらのデータにより、腸管in vivoにおいてはGas6が腫瘍細胞の増殖に直接の促進効果をもたず、腸管間質等における炎症を抑制して二次的に腸腫瘍の進展を抑制する可能性を改めて確認出来た。生体内では腸管内常在菌叢と間質の炎症細胞とのクロストークが、腸腫瘍の進展過程に大きく影響を及ぼすことを確認し、研究代表者らの仮説が正しいことを示すものである。また、ヒト大腸癌臨床検体を用いた解析も、順調に症例数の集積が進んでおり、Gas6発現と大腸癌の進展程度、また予後との相関関係に関する検討も進捗が見られる。したがって、本研究は平成24年度において当初の計画通り、おおむね順調な進捗状況を示しているものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、炎症性腸発癌モデルおよび多段階腸発癌モデルを用いて、大腸癌の進展過程における間質の重要性を示した。今後は、これらふたつのモデルマウスを用いて、腸管内常在菌叢と間質の炎症細胞とのクロストークが腸腫瘍の進展過程に、どのような影響を及ぼすかを検討する。これらの検討を通じて、腸内常在菌叢の解析や上皮・間質のクロストークを考慮しなければ、腸管という特殊な臓器において、他臓器で得られたデータをそのまま外挿することの危険性を検証する。またこれら種々の遺伝子改変モデルマウスや培養細胞株を用いた実験で得られたGas6の意義について、ヒト大腸癌においても検討を試みる。そのため今後は、ヒト大腸癌患者手術標本を用いて、Gas6の発現と大腸癌間質に存在する諸因子との相関をさらに検討する。これにより、ヒト大腸癌でもGas6が何らかの役割を果たしていることが確認し、将来的にGas6に対する抗体医薬や核酸医薬、デコイ治療などの可能性について検証する可能性が広がると思われる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|