研究課題
腸管に存在する大量の常在菌叢は、自然免疫を介して腸管の恒常性維持に重要な役割を果たすことが示唆されている。そのため近年、自然免疫の制御によって大腸癌の進展を制御する可能性が注目を集めている。Growth arrest specific gene 6 (Gas6)は、抗原提示細胞でToll-like受容体を介したNFkBの活性化を抑制し、過剰な自然免疫を制御する。平成25年度には、Gas6の存在下で大腸の自然免疫応答が制御される結果、大腸癌の進行を抑制するか否かを、Gas6ノックアウト(Gas6 KO)マウスを中心に解析した。AOM/DSSを投与したGas6 KOマウス、およびGas6 KO; ApcMinマウスでは、間質への炎症細胞浸潤および炎症性サイトカインの発現が野生型マウスよりも亢進していた。それにともなって、これらGas6 KOマウスの腸腫瘍では腫瘍上皮細胞の増殖も亢進しており、腸腫瘍の数と大きさが増加していた。その結果、これらGas6をKOした腸腫瘍モデルマウスの生存期間は野生型マウスよりも有意に短縮していた。さらにヒト大腸癌臨床検体においてGas6の発現を免疫染色で検討したところ、癌上皮におけるGas6の発現と間質の炎症細胞浸潤は逆相関しており、Gas6の高発現群では有意に生存期間が短縮していた。これらの検討を通じて、腸内常在菌叢の解析や上皮・間質のクロストークを考慮しなければ、腸管という特殊な臓器において、in vitroで得られたデータをそのまま外挿することの危険性が示された。また、ヒト大腸癌でもGas6が病態の進展や予後に影響を及ぼす可能性が示されたことから、自然免疫応答の制御による大腸癌治療へ向けた基礎的知見が得られた。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Carcinogenesis
巻: 34 ページ: 1567-1574
10.1093/carcin/bgt069