研究課題
大腸癌は日常臨床上、遭遇することの多い頻度の高い癌種であるが、遠隔転移を来たした進行癌の予後はきわめて不良である。特に肝転移は大腸癌の予後を規定する最も重要な因子であり、これを制御することは大腸癌の内科的治療に残された最大の課題である。インスリン様増殖因子(Insulin-like Growth Factor, IGF)は肝臓で産生される主要な増殖因子であるが、肝細胞から産生された後、non-parenchymal cellから産生されるIGF結合蛋白(IGF Binding Protein, IGFBP)と結合して大部分が非活性型として存在する。したがってIGFが作用を発揮するためにはプロテアーゼによるIGFBPの分解が必須である。われわれは大腸癌の肝転移巣において、腫瘍細胞が産生するマトリックスメタロプロテアーゼ-7がIGFBP-3を分解する結果、肝転移巣周囲のIGFが活性化され、抗アポトーシス因子として作用することが、転移の形成に重要な役割を果たしていることを提唱してきた。free IGFに対する中和抗体が肝転移を抑制した事実もこのメカニズムの正当性を支持する。しかしながら活性化された(free)IGFを直接評価した報告は少なく、IGFの分子標的としての有用性を証明するためにも、in vivoにおけるfree IGFの評価は必須であると考えた。そこでまずわれわれはマウス血清でIGF type1受容体(IGF-1R)過剰発現細胞を刺激し、抗リン酸化IGF-1R抗体を用いたウエスタンブロット法にて間接的ながらfree IGFを半定量化する系の構築に成功した。またその過程においてfree IGFは状況次第では容易にIGFBPから遊離し、採血方法(EDTA採血が必須)や保存期間(長期保存は避けたほうが良い)により無視できない影響を受けることを明らかにした。
3: やや遅れている
(1)IGFの腫瘍局所における活性化が転移の微小環境に依存していると考えられる以上、よりヒトに近い肝転移モデルでの評価が望ましい。そのため我々はマウス大腸がん細胞(CT26およびcolon26)をマウスに脾注入し肝転移を作成することを試みている。しかしながら今のところ一定した肝転移モデルの構築に成功していない。(2)またCT26およびcolon26はIGFBP分解酵素であるMMP-7の発現がないことも確認されており、MMP-7に代わるIGFBP分解酵素の探索も必要と考えている。
(1)より安定してfree IGFを血漿から分画するためフィルターを用いた分子量分画や前処理として血漿からアルブミンやグロブリンを除去することも試みる予定である。(2)CT26およびcolon26を用いた肝転移モデルの作成がうまくいかない場合は、高転移株として樹立されているSL4細胞を用いることも考えている。一方でヒト大腸がん細胞株HT29をSCIDマウスに脾注して作成する肝転移モデルはすでに確立されている。HT29はMMP-7も高発現しており、免疫染色にて肝転移巣のIGF-1Rのリン酸化も確認されている。さらにIGF中和抗体による肝転移巣の縮小効果も証明されている。マウス大腸がん細胞を用いた系がうまく使えない場合は、後者のモデルを用いて転移局所におけるIGFの活性化(free IGFの増加)を証明したいと考えている。(3)IGFの活性化が証明されれば、より効果的に肝転移巣局所のIGFを中和する方法として中和抗体の脾注による治療法の開発を行う。さらにfree IGFが治療効果や副作用を予測するバイオマーカーとなりうるかも評価したい。
特に大きな物品購入の予定はない。主にマウスと抗体を中心とした試薬の購入代金に使用する予定である。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 備考 (2件)
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