研究課題/領域番号 |
23590940
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松浦 稔 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30402910)
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 環境因子 / 鉄 |
研究概要 |
前年度に引き続き、腸内細菌の存在下に慢性腸炎を自然発症することが知られている炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease;以下IBD)の動物モデルの1つであるInterleukin-10欠損(以下,IL-10KO)マウスを用いて、経口的な鉄摂取が慢性腸炎の病態生理に与える影響を検討した。上記の解析を行うのに適切な時期の決定が問題となっていたが、離乳可能となる生後4週齢から鉄含有量の異なる食餌(Low-iron diet、High-iron diet)をマウスに与え、まず食事を与える期間を4、8、12週間と各々設定し、組織学的炎症およびサイトカイン産生(大腸組織:IL-12p40,腸間膜リンパ節:IL-17, IFN-g)を検討した。その結果、食餌投与開始8週および12週後のLow-iron diet群で組織学的炎症の改善と各種サイトカイン産生の低下を有意に認めたが、8週後と12週後の間には有意差を認めなかった。以上より、食餌投与8週間後での解析が適切と考え、次に上記マウスの盲腸内容物を用いて細菌培養を行った。その結果、Low-iron diet群とHigh-iron diet群の間で腸内細菌総数に有意差を認めなかったが、形成されるコロニーの形態が明らかに異なり、各群における腸内細菌叢の組成が変化している可能性が考えられた。今後は、分子生物学的手法を用いて上記で示唆された腸内細菌叢の変化を客観的に評価することに加え、好中球やマクロファージにおける鉄関連分子(Nramp、Ngalなど)の発現や鉄が細菌毒性に与える影響を検討し、環境因子としての食餌鉄が慢性腸炎の病態形成に関与するメカニズムの解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で用いるIL-10KOマウスはSPF(specific pathogenic bacteria free)環境下で腸内細菌の存在下に慢性腸炎が誘導されるIBD動物モデルであるが、無菌環境下に飼育したIL-10KOマウスに腸内細菌(SPF Bacteria)を直接移入して腸炎を誘導する場合と異なり、腸炎の発症が緩徐で、かつ腸炎発症時期の個体差が大きい。従って、本研究計画では鉄含有量の異なる食餌を与えて慢性腸炎への影響を経時的に解析しているが、解析を行うのに適切な時期の決定に際して、腸炎発症時期の個体差の影響を可及的に少なくするため食餌投与開始後4、8、12週のいずれにおいても各群8匹以上のマウスを用いて予備的な検討を行ったため時間を要し、当初の研究計画よりも遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果より、IBD動物モデルにおいて食餌中に含有される鉄が慢性腸炎を増悪させることが示され、今後は、腸内細菌叢への影響や細菌毒性に与える鉄の影響および鉄関連分子の発現変化を検討し、食餌鉄が慢性腸炎の病態生理に関与するメカニズムの解析を進める。 1)腸内細菌への影響についての解析:経口的な鉄摂取が腸内細菌に与える影響については、今後、分子生物学的手法を用いた解析を進めていく。これまでに施行した細菌学的手法による解析では腸内細菌総数に有意差を認めなかったがコロニー形態には差を認めており、腸内細菌叢のバランスの解析が必要と思われる。従って、マウスの盲腸内容物から細菌のgenomic DNAを抽出し、T-RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)解析や代表的なcolitogenic bacteriaやprotective bacteriaに特異的なprimerを用いて定量的PCRを行い、腸内細菌叢の変化を検討する。 2)細菌毒性への影響についての解析:経口的な鉄摂取が細菌毒性に与える影響をマクロファージ細胞株や骨髄由来のマクロファージを用いて検討する。 3)宿主側の鉄関連分子への影響についての解析:腸内細菌への鉄の影響のみならず、宿主側の鉄代謝に関連する分子の発現などを解析し、慢性腸炎に与える鉄の影響を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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