研究概要 |
炎症性腸疾患の動物モデルの1つであるInterleukin-10欠損(以下,IL-10KO)マウスを用いて、離乳可能となる生後4週齢から鉄含有量の異なる食餌(Low-iron diet、High-iron diet)をマウスに与え、組織学的炎症およびサイトカイン産生(大腸組織:IL-12p40,腸間膜リンパ節:IL-17, IFN-g)を検討した。その結果、食餌投与開始8週後のLow-iron diet群で組織学的炎症の軽減と炎症生サイトカインの発現が有意に低下することを確認した。次に、上記マウスの盲腸内容物を用いて腸内細菌叢に与える影響を検討した。細菌学的手法(CFU assay)ではLow-iron diet群とHigh-iron diet群の間で腸内細菌の総数については有意差を認めなかった。しかし、生物学的手法(T-RFLP:Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)により得られた結果をクラスター解析すると、両群間において腸内細菌叢の組成が大きく変化することが明らかとなった。さらに細菌毒性への影響を検討するため、マウスマクロファージ細胞株(J774)に異なる鉄濃度で培養したE. coliを感染させ、マクロファージ内での細菌の増殖や殺菌抵抗性について検討した。その結果、鉄負荷を加えていない細菌と比較し、鉄負荷を加えた細菌はマクロファージ内での殺菌に抵抗性を示し、これらの細菌を貪食したJ774細胞から発現される炎症生サイトカインが有意に増加していた。以上より、食事に含有される鉄は腸内細菌叢のバランスや細菌毒性を変化させることにより炎症生腸疾患の病態に関与することが示唆された。
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