研究課題/領域番号 |
23590942
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
石原 俊治 島根大学, 医学部, 准教授 (80263531)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 制御性B細胞 / 炎症性腸疾患 / 自然免疫 / IL-10 / クローン病モデルマウス |
研究概要 |
<SCIDマウスへのT細胞移入腸炎モデルを用いた制御性B細胞の機能解析>私共のこれまでのクローン病モデルマウス(SAMP1/Yit)を用いた検討で、クローン病の病態に制御性B細胞が関わる可能性が示唆さていた。平成23年度は、実際に腸炎の発症や増悪に制御性B細胞の機能異常が関わるかを明らかにするために実験をおこなった。SAMP1/Yitの腸管膜リンパ節から分離したCD4陽性T細胞をSCIDマウスへ移入した腸炎モデルを作製し、同時移植した制御性B細胞が腸炎発症や増悪に影響を与えるかを実験的に評価した。本検討から、全B細胞移入を共移入した群に比べて、制御性B細胞を除去したB細胞を共移入した群において、有意に腸炎の程度が増悪した(体重減少、病理組織学的所見、炎症性サイトカイン産生で評価)。現時点までに、腸炎の発症と増悪に制御性B細胞が関与する可能性が明らかとなっている。 ヒト末梢血B細胞における制御性B細胞の存在と、炎症性腸疾患患者における制御性B細胞の機能解析を追加した。クローン病および潰瘍性大腸炎患者の末梢血B細胞を磁気ビーズで分離後にin vitroで培養し、非メチル化CpG DNAによる刺激をおこない、制御性B細胞のkey cytokineであるIL-10を測定した。この実験においても、クローン病モデルマウス(SAMP1/Yit)で得られた結果と同様に、炎症性腸疾患、特にクローン病において、B細胞のIL-10産生能が低下していることが示された。動物実験とヒトの実験結果から、クローン病の病態において制御性B細胞の機能異常が関与している可能性が示唆された。現在、本実験内容について投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、これまでの研究において、SCIDマウスへのT細胞移入腸炎モデルを用いた制御性B細胞の機能解析をおこなうことによって、腸炎発症や増悪の病態における制御性B細胞の役割を明らかにした。現時点までの研究の進行状況は順調であり、実験結果の研究前に立てた仮説を検証するのに十分なものであった。今後は、制御性B細胞を用いた腸炎治療法を実験的に確立することを目的に継続していく。具体的には以下の2点である。I.In vitroでの制御性B細胞の誘導と治療実験AKR/Jマウスから、樹状細胞を含む脾細胞およびMLN細胞を各々調整する。In vitroにおいて分離細胞をCpG DNAですることによって制御性B細胞を誘導する。得られた純度の高い制御性B細胞分画をSAMP1/YitのCD4+T細胞とともにSCIDマウスへ移入し、移入B細胞による腸炎抑制効果を先述した腸炎評価項目を用いて検討する。II.アポトーシス細胞による制御性B細胞の生体内での誘導の試みと治療応用マウス胸線細胞を分離して、in vitroにおいてデキサメサゾンによってアポトーシスを誘導する。アポトーシスを誘導した細胞を尾静脈からAKR/Jマウスに投与し、経時的に脾臓からB細胞を分離してCpG DNA刺激によるIL-10産生能を評価する。また、実際にアポトーシス細胞(5x106/mouse/回)をSAMP1/Yit マウスに尾静脈からマウスに投与し(3, 4, 5週齢)、その後、25週齢までの観察をおこない、腸炎発症の抑制が可能であるかを評価する。
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今後の研究の推進方策 |
<制御性B細胞を用いた腸炎治療法の実験的確立>平成23年度の研究成果をもとに現在進行中の実験を平成24年度は継続していく。内容は、アポトーシス細胞の移入による制御性B細胞の生体内での誘導の試みと治療応用である。マウス胸線細胞と骨髄細胞を分離して、in vitroにおいてデキサメサゾンによってアポトーシスを誘導する(アポトーシスはpropidium iodideとannexin-Vの染色で確認)。アポトーシスを誘導した細胞を尾静脈からAKR/J(5週齢)マウスに投与し(5x107/mouse)、経時的に脾臓からB細胞を分離してCpG DNA刺激によるIL-10産生能を評価する。また、実際にアポトーシス細胞(5x106/mouse/回)をSAMP1/Yit マウスに尾静脈からマウスに投与し、その後、25週齢までの観察をおこない、腸炎発症の抑制が可能であるかを評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
必要備品であるフローサイトメーター、PCR関連器機、EIA測定関連器機、病理組織学的検索に必要な顕微鏡などは、私共の研究室、および大学の共同研究施設の備品で対応可能である。したがって、平成24年度は、消耗品と実験動物、これまでの研究成果の国際学会での発表の旅費として研究費を使する予定である。消耗品としては、実験動物(リンパ球などのサンプル採取や腸炎モデル用)、分子生物学的試薬(PCRやシークエンス関連)、各種抗体(フローサイトメーター用)などが必要である。SCIDマウスへの移入実験と腸炎の解析も引き続きおこなっていく。SCIDおよび腸炎のコントロールマウスであるAKR/Jマウスの購入が必要である。学会発表は、2012年度の欧州消化器病学会(アムステルダム)の発表予定である。
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