研究課題/領域番号 |
23590943
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
棚橋 俊仁 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命准教授 (30380067)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | RNA結合タンパク質 / 細胞周期 / アポトーシス / p53 / 選択的スプライシング / RIP-Chip / 大腸癌 |
研究概要 |
RNA結合タンパク質であるSRp20をノックダウンした大腸がん細胞は、G1/S移行期で細胞周期が停止し、アポトーシスが進行することをFACscanとTUNNEL法でそれぞれ確認した。次いでSRp20をノックダウンした細胞では、1500遺伝子の発現が変化することをヒト遺伝子発現アレイ(アジレント社)により確認し、パスウエイ解析により、G1/S移行期を制御する遺伝子群の特徴的な変化を捉え、G1/S移行期で細胞周期停止に関与する遺伝子を同定した。エキソンアレイ(アフィメトリックス社)を用いて、SRp20のノックダウンにより生じる125遺伝子の選択的スプライシングの変化を確認し、G1/S移行期の制御遺伝子とアポトーシス関連遺伝子の特徴的な選択的スプライシングを捉えた。FLAGタグ標識SRp20を過剰発現する細胞を用いて、RIP-Chip法(RNA Immunoprecipitation followed by Microarray)により、SRp20が結合するmRNAを網羅的に解析して、標的候補遺伝子を同定した。上記の解析をもとに、G1/S移行期での停止を介在する候補として細胞周期調節転写因子(E2F1とE2F7)を、アポトーシスを介在する候補としてp53に働くキナーゼ(HIPK2)を見出した。SRp20のノックダウンにより、HIPK2からエクソン8の5'領域を欠落するHIPK2Δ8が転写されることを見出した。HIPK2はp53のSer46のリン酸化をきたすと報告されている。我々が見出したHIPK2Δ8の過剰発現系を構築し、HIPK2Δ8はタンパク質としてp53のSer46のリン酸化能を有することを確認できた。SRp20はその制御するHIPK2の選択的スプライシングを介して、p53のリン酸化に関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
p53のリン酸化に働くキナーゼであるHIPK2のエクソン8を部分的に欠失するアイソフォームHIPK2Δ8を見出した(投稿中)。さらにHIPK2Δ8はp53のリン酸化機能を有するものの、p53非依存性なアポトーシス経路にも関与することを見出した(投稿準備中)。現在、SRp20が標的とする他の候補因子であるE2F1とE2F7のアイソフォームの解析を進め、細胞周期との関連を調べている。RNA結合タンパク質であるSRp20は、その制御している多くの遺伝子の選択的スプライシングを介して、多様な細胞機能を示すことが明らかになりつつあり、幅広い研究展開が可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
SRp20が標的とする候補因子およびそのアイソフォームの過剰発現プラスミドを順次作成中である。さらにSRp20は単独のタンパク質としてエクソンとイントロン認識に作用するのではなく、タンパク質の複合体であるスプライソソームとして、転写、スプライシング、核細胞質輸送への関与が示唆されている。SRp20はスプライソソームの主要な構成因子であるが、このスプライソソームの構成因子は未だ充分に解明されていない。そのため、質量分析計によりSRp20と相互作用をきたすタンパク質の網羅的な解析を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画の当初はマイクロアレイにより、SRp20の標的因子を解析する手法(RIP-Chip; RNA Immunoprecipitation followed by Microarray)を提唱していた。しかし最近の急速なゲノムイノベーションに伴い、簡易型次世代型シークエンサー(イルミナ社)が登場している。次世代型シークエンサーによりSRp20の標的因子を解析する手法(RIP-Seq; RNA Immunoprecipitation followed by Sequencer)の確立を試みるための消耗品として研究費を計上する。また研究申請者の転任先である神戸薬科大学研究室には超微量分光光度計が既に設置されていたため、平成23年度の研究計画では備品購入の必要がなくなった。現在、備品として超純水製造装置の購入を計画中である。
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