研究実績の概要 |
放射線腸炎は、放射線治療の晩期有害事象の一つで、難治例への治療が課題となっている。また2011年3月の東日本大震災後の原発事故において、高線量作業環境下の事故での急性放射線障害の発生に備えるためにも、再生治療などの開発研究は重要である。 本研究ではまずヒト自家組織由来間葉系前駆細胞の初代細胞株が、ES細胞用の培養液環境下で、最終分化せずに前駆細胞機能と多分化能を維持したまま細胞分裂できることがを明らかにした(PLoS ONE 27;6: e19354, 2011)。また晩発性の有害事象には、年齢の要素も考えられるので、臓器は異なるが放射線の感受性に対する年齢の検討も行った(J Rad Res in press)。一方、難治性放射線皮膚潰瘍やクローン病潰瘍・瘻孔に対する間葉系前駆細胞を用いた治療症例の比較解析も行った(Clin Plast Surg 39:281-92, 2012)また高線量放射線照射による組織弾力性低下・瘢痕化、前駆細胞の定着阻害、血流低下などの再生を阻害する局所環境改善をめざして、FGFを用いた治療も動物モデルにて検討した(Wound Repair Regen 21:141-154, 2013)。 次に、研究代表者の福島県立医科大学への異動に伴い、原子力災害時の急性放射線障害を視野に入れた基盤研究へシフトすることが重要となった。そのため内部被ばく(Radiat Res 80:299-306, 2013)や外部被ばく( Fukushima J Med Sci 60:207, 2015)の検討を行うとともに、原子力災害のような被災者が多く医療の需要と供給のバランスが崩れた状況下で、放射線腸炎をはじめ将来確定的影響の可能性のある症例を、実用的な手段として、どのようなスクリーニングが可能かも検討した(Health Phys 107:10-17; 2014)。
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