研究課題
DNA傷害によるアポトーシス細胞内イベントのうちTWEAK・Fn14に依存する経路を見いだすための遺伝子発現解析を行った。野生型およびTWEAK 欠損マウスに3Gy放射線全身照射を行い、照射後6時間後及び24時間後の小腸及び大腸の粘膜よりRNAを抽出し、照射を行わないマウスと発現の差異を生じる遺伝子を探索した。さらにこれらの遺伝子のうちで、TWEAK欠損マウスと野生型マウスで統計学的に有意な差異を認めた遺伝子について解析を行った。マイクロアレイ解析で差異がみられた分子については定量RT-PCRによるvalidationを行った。この結果まずTWEAK受容体のFn14が小腸大腸のいずれにおいても照射後6時間、24時間で発現亢進していた。遺伝子発現プロファイルとしてみると、野生型マウスではDNA合成や細胞分裂などCell cycleに関連する遺伝子の広範な発現低下があり、細胞回転の停止と細胞死を反映しているのに比べて、TWEAK欠損マウスではこのような変化がすべてきわめて小さく、上皮細胞が生存してナイーブマウスと同等の細胞回転を行っていることが示唆された。これらの結果はTWEAK/Fn14経路がDNA傷害ストレスによるcell cycleの停止とそれに続く細胞死において、そのシグナル経路の上流で、必須の役割を果たしてことを示している。そこで、リコンビナントTWEAKナイーブマウスに3-5回TWEAKを繰り返し投与したのち消化管粘膜のCaspase3を組織学的に検出する方法で細胞死の誘導を調べたが、TWEAK単独による細胞死誘導は明らかでなかった。以上よりTWEAKの作用機構は既存の細胞死シグナル経路を増強するものと推測された。また、今後の解析に向けてL1-RTPートランスジェニックマウスの大腸におけるレトロトランスポジションの定量PCRによる定量法を確立した。
2: おおむね順調に進展している
計画通りにマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析を行うことが出来た。この解析において統計処理により十分な結果を得ることができ、細胞内でのイベントが明らかとなった。野生型マウスではDNA合成や細胞分裂などCell cycleに関連する遺伝子の広範な発現低下があり、細胞回転の停止と細胞死を反映しているのに比べて、TWEAK欠損マウスではこのような変化がすべてきわめて小さく、上皮細胞が生存してナイーブマウスと同等の細胞回転を行っていることが示唆された。このことから、TWEAK/Fn14の作用は単独でシグナルを伝えているのではなく、既存の細胞死およびアポトーシスシグナル経路を増強するものであることも明らかとなった。また、L1-RTPーの定量PCRによる定量法を確立したことで、今後の実験でのL1-RTPの関与をより鋭敏にかつ定量的に解析可能となった。
TWEAK/Fn14 依存性のシグナル分子を絞り込み、TWEAK/Fn14による細胞死増強シグナルのメカニズム解析をすすめる。このために野生型及びTWEAKまたはFn14を欠損するマウス由来の組織や細胞を用いてin vitroで検証を行っていく。申請者らはマウス由来の消化管組織を一次培養して、アポトーシスやcaspaseの活性化を形態的及び生化学的に観察する系を確立しており、ex vivoの検証をおこなう。さらに、現在飼育中のL1-トランスジェニックマウスでは、発がん物質やaryl hydrocarbon receptor (AhR)リガンドを投与すると、L1レトロトランスポジション(L1-RTP)が検出可能となる。23年に確立したRTPの定量系を利用しこのマウスを用いて、まずL1-RTPの検出、定常状態での大腸Fn14の発現、AhRリガンド投与した際の大腸におけるL1-RTPを誘導した時のFn14発現、大腸炎症を誘導したとき、Ahrリガンド投与と同時に大腸炎を誘導した際のL1-RTPの発現、およびFn14の発現誘導に変化がないかどうかを解析する。さらに、組織学的に上皮細胞の再生能や、長期にわたり大腸炎を繰り返し誘導して飼育を続け腫瘍の形成能も観察する。
各種遺伝子改変マウスの繁殖、マウス組織の一次培養のための試薬、免疫学的検出法のための試薬抗体および研究成果発表と研究打ち合わせのための旅費に使用する予定。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Adv Exp Med Biol
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10.1007/978-1-4419-6612-4_32
Gastroenterology
巻: 141 ページ: 2119-2129
10.1053/j.gastro.2011.08.040