研究課題
肝不全の治療においては肝の再生を促し、肝構成細胞増殖および機能発現が促進されることが必要である。増殖と機能発現の優先度は病態、病期によって大きく異り、両者を状況に応じてコントロールすることは治療学上極めて重要である。このことを念頭において、様々な治療法の開発が試みられている。IGF-Iは、細胞の代謝調節、増殖、分化、機能維持に関与している。IGF-I受容体を介して作用するが、Insulinと高い相同性を示し、受容体のcross-talkも認められる。生体においては流血中のIGF-Iは主として肝、特に肝細胞で産生される。必然的に肝不全においては血中濃度は低下し、IGF-I補充が治療法として想定される。しかし、肝細胞に対する効果に関しては否定的な報告が多い。肝における作用点、どの細胞にいかにしていかなる効果をもたらしているのかを明らかにする必要がある。まず、肝細胞(肝実質細胞)に対する直接作用の確認を行った。IGF-Iは受容体が確かに肝細胞存在し、それを活性化し、細胞内情報伝達系なかでもmTOR系を活性化すること、蛋白合成、増殖、糖代謝を促進することが認められた。これらは培養条件によって調節されていた。一方、肝星細胞においては、肝細胞に比し多量のIGF-I受容体が発現しており、やはり受容体を活性化した。結果、増殖は促進された。しかし一方で、星細胞におけるコラーゲン産生抑制的に働くことを見出した。IGF-Iは必ずしも肝星細胞を活性化するのではないことが明らかとなった。更に、ここでもmTOR系を介して作用すること、MMPs、TIMPを調節して、コラーゲン分解系を促進することを見出した。しかし、細胞そのものに対する毒性等は認められなかった。IGF-Iは肝細胞増殖、機能を状況に応じて促進する一方で、肝線維化を抑制しうる。肝疾患治療に有用と思われた。
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