研究課題
まず、肝癌細胞株における組み込み部位の検討を目的としてアレクサンダー細胞株における組み込み部位の解析を行った。宿主遺伝子の組み込みは、HBV DNAのX領域後半から後に宿主遺伝子が続く形で起こることが最も多い。このためX領域前半及びX領域の上流に複数のプライマー(フォワード)を設計し、プライマー(リバース)としてAlu配列を用いたプライマーを用いてAlu-PCRを行った。また、プライマー(フォワード)としてAlu配列を用いたプライマー、プライマー(リバース)としてX領域前半及びX領域の上流の複数のプライマーを用いたAlu-PCRも行った。アレクサンダー細胞株へのHBVの組み込みは解析した多くのクローンで認められたが、その大部分は非翻訳領域(第五染色体上)への組み込みであった。1クローンだけであるが、TMP 195遺伝子のエクソン上への組み込みが認められた。TMP 195は肝臓に多い細胞膜蛋白であるが、その性質、機能に関しては不明である。 次いでB型肝癌の臨床症例における解析を行った。4例の肝細胞癌の症例の切除標本に対してアレクサンダー株と同様の方法で解析を行った。その結果以下のことが示唆された。(1)非腫瘍部にも腫瘍部にもHBVの組み込みは認められるが、組み込みの部位には一定の傾向はない。(2)非腫瘍部のみならず腫瘍部でも腫瘍への組み込みはモノクローナルではない。(3)組み込みの部位がエクソンにあるものと非翻訳領域にあるものとがある。これらの分布にも一定の傾向はない。
3: やや遅れている
非腫瘍部のみならず、腫瘍部でも組み込み部位に多様性が認められることがわかり、ウイルス発癌の常識を覆す結果となりつつあり、組み込みそのものの網羅的解析を行う必要が生じてきた。このため研究計画を拡げて検討を始めたところである。従って当初の計画そのものは遅れている。
組み替え部位の網羅的解析を行う必要が生じてきたため、次世代シークエンサーを用いた網羅的解析の準備を進めており、臨床サンプル4サンプル(腫瘍部、非腫瘍部)と肝癌細胞株を用いた解析の準備が既に整っている。これまで得られた結果からは組み込まれたエクソン部位には一定の傾向は認められないが、網羅的解析により新しい遺伝子及びその組み込み部位の同定が可能になる。これら新規遺伝子の解析を行う。また、非翻訳領域にはmiRNAを含め、発癌に影響を及ぼすncRNAが含まれている可能性がある。これに関する解析も行う。
上記の通り、臨床サンプル及び肝癌細胞株における未知遺伝子の探索が含まれる。この解析をRTD-PCR、もし抗体を用いた免疫組織染色が可能であればそうした解析を行う。またHBVの存在様式と定量に関しても、シークエンスを用いて明らかにしていく。また、追加のサンプルを次世代シークエンサーにかける可能性もある。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J. Hepatol
巻: 54 ページ: 432-438
10.1016/j.jhep.2010.07.039