研究課題/領域番号 |
23590967
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山下 太郎 金沢大学, 大学病院, 助教 (90377432)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 肝細胞癌 / 癌幹細胞 |
研究概要 |
肝細胞癌の細胞起源、発癌の鍵となる遺伝子異常の同定ならびに進行肝細胞癌に対する新規治療法開発を目指し、本研究では肝硬変組織における肝前駆細胞と肝細胞ならびに肝細胞癌における癌幹細胞を分離、次世代シークエンサーを用いた遺伝子異常の解析およびマイクロアレイを用いた転写制御異常の解析を網羅的に行うことを目的としている。本年度においては、肝細胞癌における癌肝細胞および肝硬変組織における幹前駆細胞の分離をMACSにより行う方法の確立のため、ヒト肝癌切除標本を用いて癌部、非癌部のコラゲナーゼ処理後単一浮遊細胞液を作製、MACSによる分離精製の純度をFACS及びreal-time RT-PCR法を用いて評価を行った。さらに、MACSによる分離が困難な場合に備えて、免疫染色とLaser Capture Microdisectionを組み合わせて幹前駆細胞分画と肝細胞分画、癌幹細胞と非癌幹細胞の分離し、得られたサンプルのDNA、RNAのクオリティにつき評価を行った。2症例につきコラゲナーゼ処理を行い抗EpCAM抗体、抗CD133抗体を用いて解析を行ったところ、癌部についてはMACSにより5 microgramのDNA、RNAが得られ解析が可能と考えられたが、非癌部についてはEpCAM陽性もしくはCD133陽性細胞は2X104程度しか得られず、次世代シークエンスに十分なサンプル量は得られなかった。一方、Laser Capture Microdisectionを用いた検討ではEpCAM陽性、陰性細胞の分離は可能であったがCD133による免疫染色はHuH7を用いた陽性コントロールが動かず、得られたサンプル量も500 nanogram程度と少量であり、RNAのクオリティもマイクロアレイ解析には不十分であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではヒト肝癌幹細胞および非癌部における肝幹細胞、肝細胞の遺伝子異常を解析、肝癌幹細胞の細胞起源と遺伝子異常の蓄積過程を推定し、さらに同定された癌幹細胞における遺伝子異常、転写制御異常が癌細胞形質に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。この目的を達成するために、本年度は肝細胞癌患者の末梢血単核球,背景肝組織における幹細胞および肝細胞,肝細胞癌組織における癌幹細胞を分離精製した後にDNA, RNAを抽出、DNAについては全遺伝子のexon領域における遺伝子変異や欠失挿入を次世代シークエンサーで解析、RNAについてはマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行い、ゲノムにおける遺伝子異常の頻度および転写制御異常を肝幹細胞と肝細胞、肝癌幹細胞で比較する予定であった。しかしながら本年度の研究から、非癌部の肝幹細胞と肝細胞を現在有している技術であるコラゲナーゼ処理+MACS分離システム、もしくは免疫染色+Laser Capture Microdisectionを用いて高い純度でかつ解析に十分なサンプル量を得るのは困難であると判断した。一方癌部における癌幹細胞と非癌幹細胞については純度90%で約5 microgramのサンプルを2例について得ており、末梢血のゲノムも併せて次世代シークエンスを用いて比較解析は十分可能と考えられる。次年度の早期にこれらのサンプルの次世代シークエンスおよびマイクロアレイ解析を終了することは可能であり、本年度に予定していた検討項目については約80%程度達成できたものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度以後については、本年度に分離した癌幹細胞、非癌幹細胞および末梢血単核球の全エクソンシークエンスを、Applied ByosystemsのSOLiD4 次世代シークエンスシステム並びにAgilentのSureSelect Target Enrichment Systemを用いて行い、臨床サンプルから得られた2例の癌幹細胞、非癌幹細胞および末梢血単核球のエクソームの比較を行う。さらに、RNAについてはAffymetrix社のGeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayを用いてそれぞれの細胞分画でのゲノム規模の遺伝子発現情報を解析し、エクソーム情報と比較、肝癌幹細胞に特異的な遺伝子群の同定、およびEpCAM陽性肝癌幹細胞の遺伝子発現パターンの同定を試みる。同定された遺伝子変異やゲノムの挿入欠失、遺伝子発現の変動については各サンプルを用いてキャピラリーシークエンサー、ゲノムDNA-PCR、TaqMan RT-PCRなどで確認する。さらに、同定された遺伝子異常が同遺伝子発現や蛋白発現、その下流のシグナル伝達系に与える影響について、Western blotting, 免疫組織化学、蛍光免疫染色などを用いて評価する。特に、同定された遺伝子異常が特定のシグナル伝達系の活性化や不活化に関与している可能性が認められた場合には、そのシグナル伝達系を阻害するshRNAを肝がん培養細胞株を用いてレンチウイルスにより導入、もしくはsmall moleculeを用いて阻害し、癌幹細胞に与える影響につき評価する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に購入予定であったAgilentのSureSelect Target Enrichment SystemはDNAの抽出量が少なかったため、23年度に購入する必要がなくなり未使用額が生じた。平成24年度にはApplied ByosystemsのSOLiD4 次世代シークエンスシステム並びにAgilentのSureSelect Target Enrichment Systemを用いた試薬の購入(末梢血単核球、癌幹細胞、非癌幹細胞を合わせて各2例、合計6サンプル)を予定している。さらに同定されたゲノム以上を確認するためのキャピラリーシークエンス試薬およびシークエンスプローブの作成、DNA-PCRによるゲノムの挿入、欠失の確認に必要な酵素やプローブの作成を予定している。また、Affymetrix社のGeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayによる解析に必要な試薬(4サンプル分)、癌幹細胞性を確認するための免疫不全マウスへの移植に必要なNOD/SCIDマウスの購入、および得られた研究成果を国内外で発表するための旅費を計上している。
|