研究課題/領域番号 |
23590974
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 雄一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30457014)
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研究分担者 |
木曽 真一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40335352)
渡部 健二 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50379244)
筒井 秀作 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10359846)
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キーワード | Gab1 / シグナル伝達 / 肝細胞癌 / 肝線維化 / CCL5 / 分子標的治療 |
研究概要 |
【背景及び目的】実際のヒトの肝発癌は、肝炎ウイルス(HBV、HCV)等による慢性肝炎→肝硬変を背景に引き起こされていることがほとんどである。このため、Gab1の肝における発現が、発癌の母地である肝線維化に与える影響について検討した。【方法】1)肝特異的Gab1欠損マウス(KO)及び対照マウス(WT)に対して、総胆管結紮術(BDL)を施行し、胆汁うっ滞性肝障害と肝線維化を評価した。2)cDNAマイクロアレイを用いて、肝障害や肝線維化に関わる遺伝子を網羅的に探索した。【成績】1)KOではWTに比し、①TUNEL染色陽性肝細胞数が約1.5倍と有意に増加 ②Ki 67陽性肝細胞数が52.3%と有意に減少し、炎症関連マーカー遺伝子発現量が有意に増加 ③sirius red陽性肝線維化領域が約2.0倍と有意に増加し、肝線維化関連マーカー遺伝子発現量が有意に増加 を認めた。2)肝線維化組織を用いた網羅的遺伝子解析の結果、BDLを施行したKOでWTに比し上昇している遺伝子として、炎症促進作用と同時に肝線維化促進作用を有するケモカインCCL5が同定され、その発現量はKOではWTに比し5.09倍と有意に増加した。5)CCL5受容体アンタゴニストMetCCL5の投与はKOにおける肝線維化を有意に抑制した。【考案】肝細胞におけるGab1欠損は、胆汁うっ滞に伴う肝線維化を増悪させた。その機序として、Gab1欠損による再生障害や炎症増強に加え、肝細胞由来CCL5誘導の関与が示唆された。【結語】肝細胞Gab1の発現抑制が、肝癌の発生母地である肝線維化を増悪させることがわかり、肝発癌との関与が示唆された。また、今回、Gab1がCCL5を抑制的に制御していることがわかり、CCL5が一部の癌で発現亢進している報告とあわせて考えるとGab1-CCL5経路が肝発癌にも関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【理由】今回の検討では、肝発癌の発生母地である肝線維化でのGab1の役割について肝特異的Gab1欠損マウスを用いて検討を行った。この結果、1)肝細胞におけるGab1欠損がマウス肝線維化を増悪させること 2)この過程においては、肝細胞でのGab1欠損が肝細胞アポトーシスを増悪させ、逆に肝再生を抑制していること 3)網羅的な遺伝子解析の結果よりGab1欠損による肝線維化過程においてケモカインCCL5発現増強が関与していること 4)CCL5の機能を抑制した結果、Gab1欠損による肝線維化を抑制することができたこと を明らかにできた。以上の結果より、当初の研究目的は、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
【今後の推進方策】昨年度の結果によりGab1発現抑制がヒト肝癌細胞株の増殖をin vitro あるいは in vivo で抑制することを既に明らかにしており、この点も踏まえ、今後、化学発癌モデルを用いた検討を行い、Gab1の直接作用についても検討していく予定である。 さらに今回、私たちは遺伝子改変動物の解析により、Gab1欠損が再生障害や炎症増悪のみならずケモカインCCL5発現亢進を通じて、肝線維化を増悪していることを明らかにできた。これまでの報告で、CCL5は発癌や転移に関与していることも明らかにされており、肝発癌との関与も今後検討していく予定である。Gab1-CCL5経路が肝線維化のみならず、肝発癌にも寄与していることを示すことができれば、これらをターゲットとした肝癌に対する新たな治療戦略を開発することができる可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
【次年度の研究費の使用計画】今後の研究費の使用計画としては、マウス及びヒトの遺伝子解析に必要な、1)リアルタイムRT-PCRに必要な試薬(リアルタイムPCR用cDNA合成試薬、高効率リアルタイムPCR Master Mix)2)免疫染色及びウエスタンブロットに用いる抗体 3)サイトカイン、ケモカイン測定用のELISAキット 等の購入に用いる予定である。
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