研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病と関連し、NAFLDの一つの病型である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝硬変や肝細胞癌へ進展する予後不良な疾患である。しかし、病態の進展と生活習慣病との関連性は十分明らかになっていないため、簡便な診断法や治療法も確立していない。我々がNAFLD患者血中からプロテオミクスで同定したKininogen断片は高血圧と関連する可能性があることから、本研究では、NAFLD/NASHにおける高血圧の臨床的意義を検討した。本年度は、塩分負荷で高血圧を誘発するSHRラットにコリン欠乏アミノ酸置換食(CDAA)を投与し、脂肪肝と肝線維化を誘導し、高血圧が脂肪肝と肝線維化に与える影響を検討した。 6週齢のSHRラットに普通食±高塩分食(8%)を7週間投与し、その後、CDAA±高塩分食(8%)を8週間、もしくは24週間投与した。高塩分群では週齢とともに血圧は徐々に上昇し、7週目から高塩分群は、普通塩分群と比較して有意な血圧の上昇を認めた。CDAA 8週間投与により、脂肪肝を認めたが、高塩分群と普通塩分群で肝脂肪化の程度に差はなかった。一方、血清ALT値は普通塩分群と比較して高塩分群で有意に高値であった。また、CDAA24週間投与後の肝線維化は、高塩分群で有意に進行し、コラーゲンなどの肝遺伝子発現は高塩分群で増加していた。以上のことから、高塩分負荷により誘導された高血圧は、肝炎を増悪させるとともに、肝線維化を促進すると考えられ、高血圧はNAFLDの肝線維化を促進する可能性があることが示唆された。 さらに、本年度はヒト血清中のKininogen断片濃度の測定系を確立し、NAFLD/NASHにおけるKininogen断片濃度を多数例で測定し、臨床的意義を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、NAFLD/NASHと高血圧との関連を明らかにするために、動物モデルを用いて、高塩分負荷により誘導された高血圧は、ラット肝の脂肪沈着の程度には影響しなかったが、インスリン抵抗性の増悪、IL-10やHO-1の発現低下による抗炎症作用の抑制を介して肝炎を増悪させるとともに、肝線維化を促進することを明らかにした。また、ヒト血清中のKininogen断片濃度の測定系を確立し、NAFLD/NASHにおけるKininogen断片濃度を多数例で測定し、臨床的意義を検討中である。初年度である23年度は、NAFLD/NASHの病態解明や、新しい診断法の確立を目指した研究が順調に進展しており、区分(2)とした。
1.動物モデルを用いた検討では、(a)マイクロアレイ解析などで発現に差のある遺伝子については、動物モデルで、その発現の経時的な変化を検討し、(b) 同定した関連分子の発現レベルや局在などをタンパクレベルで経時的に解析し、CK-19、MnSOD、チオレドキシン等のNASH/NAFLDに関連することが報告されているマーカーと、本研究で同定した分子との関連を検討する。2.高血圧合併脂肪肝動物モデルでの降圧剤の効果とその作用機序解析を継続する。3.臨床検体を用いた検討では、Kininogen断片、kallikrenやBradykininの血清中レベルを多数例で測定し、病態との関連を明らかにする。また、動物モデルで同定した分子の測定系を新たに確立し、臨床的意義を臨床検体で検討する。
次年度は、動物モデルを用いた研究やヒトサンプルを用いた検討に研究費を用いる。消耗品費や動物代、試薬類、一般検査データの外注検査代等に使用する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
J Gastroenterol
巻: 46(4) ページ: 519-28
10.1007/s00535-010-0336-z
巻: 46 ページ: 769-778
10.1007/s00535-011-0376-z