研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、高血圧などの生活習慣病と関連し、NAFLDの一つの病型である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝硬変や肝細胞癌へ進展する予後不良な疾患である。しかし、病態の進展と高血圧との関連は十分明らかになっていないため、簡便な診断法や治療法も確立していない。我々がNAFLD患者血中からプロテオミクスで同定したKininogen断片は高血圧と関連する可能性があることから、本研究では、NAFLD/NASHにおける高血圧の臨床的意義を検討している。昨年度は、塩分感受性高血圧(SHR)ラットにコリン欠乏アミノ酸置換食(CDAA)±高塩分食(8%)を投与する実験を行い、高血圧は脂肪肝の程度には影響しないものの、CDAAにより誘導された肝炎と肝線維化を高血圧は増悪させることを明らかにした。本年度は、高塩分で誘導された高血圧を降圧剤で低下させると、高血圧で誘導された肝炎増悪は降圧剤で抑制されることを明らかにした。しかし、高塩分で誘導された高血圧による肝線維化の増悪は降圧剤では有意には改善しなかった。さらに、本年度は、Western Blotで検討した全長Kininogen濃度は、NAFLD患者では低下し、ELISAで測定したKininogen断片濃度は、健常者よりNAFLD患者で高値であることを明らかにした。しかし、Kininogen断片と血圧との関連は不明であった。以上のことから、高塩分負荷により誘導された高血圧は、肝炎を増悪させるとともに、肝線維化を促進し、降圧剤でそれらの増悪は一部抑制される可能性があると考えられた。また、高血圧との関連は明らかではないが、NAFLDではKininogen分解が亢進していると考えられ、Kininogen断片はNAFLD/NASHのバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、NAFLD/NASHと高血圧との関連を明らかにするために、動物モデルを用いて、高塩分負荷により誘導された高血圧は、ラット肝の肝炎を増悪させるとともに、肝線維化を促進することを明らかにした。また、降圧剤による効果も一部明らかにしている。さらに、ヒト血清中のKininogen断片濃度の測定系を確立し、NAFLD/NASH患者におけるKininogen断片濃度を測定し、臨床的意義を明らかにしつつある。2年目である24年度までに、NAFLD/NASHの病態に高血圧が関与すること、降圧剤が治療法として有効である可能性があること、Kininogen断片を用いた新しい診断法の確立を目指した研究が順調に進んでいることから、区分②とした。
1.高血圧合併脂肪肝動物モデルでの降圧剤の効果とその作用機序解析を継続する。2.臨床検体を用いた検討では、Kininogen断片、kallikrenやBradykininの血清中レベルを多数例で測定し、病態との関連を明らかにする。また、今までに報告されているNAFLD/NASHのバイオマーカーと診断能について、比較検討する。
次年度も、動物モデルを用いた研究やヒトサンプルを用いた検討に研究費を用いる。消耗品費や動物代、試薬類、一般検査データの外注検査代等に使用する。
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Diabetol Metab Syndr.
巻: 4 ページ: 34
doi:10.1186/1758-5996-4-34