研究課題/領域番号 |
23590987
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
福井 博 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (80145838)
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キーワード | エンドトキシン / 自然免疫 / Toll-like受容体 / 非アルコール性脂肪肝炎 |
研究概要 |
今年度は線維化進展に内因性エンドトキシンが重要な役割を果たしているコリン欠乏アミノ酸 (CDAA) 食投与ラットNASHモデルを用いて、難吸収性抗菌薬投与により内因性エンドトキシンを減少させることによる肝線維化抑制効果について検討した。 雄性F344ラットをCDAA投与群とCDAA+ 抗菌薬投与群に分け、さらにコリン添加アミノ酸 (CSAA) 食投与ラットを対照群とし、8週後に動物を犠死させ、各種検討を行った。難吸収抗菌薬についてはPolymixin B sulfate 1g/LおよびNeomycin 3g/Lをdrinking waterに溶解し、1週休薬・3週投与を2回繰り返し計8週間投与した。肝線維化は通常の組織学的検討に加えてSirius red染色での線維化面積をイメージアナライザーを用いて半定量して評価した。さらに、線維化進展に中心的役割を果たしている活性化肝星細胞(Ac-HSC)に対する抗菌薬の作用を検討するためにα-SMAを指標とした免疫染色を行い、real time PCRにてTGF-β、collagen-1の遺伝子発現を評価した。 CDAA投与群では対照群とは異なり著明な肝線維化とAc-HSCの増加が認められた。CDAA+抗生剤投与群ではCDAA投与群に比し、肝線維化は有意に抑制され、Ac-HSCの増加も同様に抑制された。また、collagen-1発現も抗菌薬投与により有意に抑制され、TGF-β発現も低下傾向を示した。 実験的ラットNASHモデルにおいて抗菌薬投与が抗線維化効果を示したことから、肝線維化進展過程への内因性エンドトキシンをめぐる腸肝相関の関与がうかがわれた。内因性エンドトキシンの抑制がHSCの活性化を阻害し、TGF-β、collagen産生を低下させたことから、腸内細菌叢のコントロールがNASH線維化の防止につながりうると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Toll-like receptor (TLR) 4を介する自然免疫系の賦活化には腸内細菌由来のエンドトキシン(Et)の作用が考えられているが、肝内と腸内のTLR4動態を同時に解析した試みはこれまでない。今回は研究の目的として、1) 肝障害における小腸粘膜組織、肝組織内のTLR4、TNF-α動態の解析、2)肝障害時の肝内Et局在とKupffer細胞、肝星細胞におけるTLR4動態、3) 自然免疫系調整薬の肝障害に対する効果の3点をあげた。いくつかの実験モデルを当初考えていたが、最も直接的に腸肝相関を検討できるモデルとしてCDAA) 食投与ラットNASHモデルを採用し、本モデルにおいて小腸粘膜組織、肝組織内のTLR4、TNF-α動態の解析は初年度に仕上げることができた。さらに自然免疫系の調整薬として初年度にY-40138の効果を検討したが、24年度には難吸収抗菌薬で腸管内のEtを制御することにより、肝病変の進展を抑制できることを証明できた。in vitro系での肝障害時の肝内Et局在とKupffer細胞、肝星細胞におけるTLR4動態についてはいまだ方法を確立することができず、この点は遅れていると言わざるを得ない。しかし、腸肝相関機序を解明する上ではin vitro系よりむしろ24年度に行ったin vivo系を用いてマクロ的な観点から、研究を深めることがより重要であると考える。腸肝相関の解明と言う意味ではこれまでin vivoの実験系で得られてきた成績は十分満足できるものである。一方、臨床例の検討では重症肝疾患、胆道疾患を中心に血中エンドトキシンを測定し、病態との関連を検討するとともに、難吸収抗菌薬の臨床的効果についても徐々に成績を集積してきており、25年度にまとめることができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
このCDAA投与ラットNASHモデルにおいての肝・小腸TLR4 mRNA発現、血中エンドトキシン(Et)を反映するとされるLPS-binding protein (LBP) mRNA発現について検討する予定である。さらに、腸管透過性については、FITC-dextranを経口投与し、4時間後に門脈血中のFITC蛍光強度を測定することにより解析する予定である。門脈血中Etの測定系をほぼ確立することができたので、さらに下大静脈血中Et濃度と対比する。実験手技の簡便さから25年度もCDAA食投与NASHモデルに限定して腸肝相関の研究を進めたい。FITC-Etについても動態解析を試みたい。 臨床的にはできるだけ多くの症例の血中エンドトキシンをEAA法で測定し、難吸収抗菌薬投与前後の肝機能、血中エンドトキシンの推移についても検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度までと同様に実験動物、飼料、ラットエンドトキシン(Et)測定試薬、組織学的検討、mRNAの測定に必要な試薬類、EAA(ヒト血中Et測定用)試薬などに研究費を使う予定である。
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