研究課題
肝発癌に関連し得る遺伝子の報告は膨大な数に上る。その中でも長期の持続的な酸化ストレスへの曝露で誘導される遺伝子は、多段階的で多様性のある肝発癌に共通性の高い根幹的な肝腫瘍原性遺伝子であると考えられる。本研究の目的は、申請者が報告してきた酸化ストレス誘導性の肝腫瘍原性遺伝子の機能解析を行うことである。 当該年度は、酸化ストレス誘導性の肝腫瘍原性遺伝子のうち、IQGAP1、vimentin、CTGFに焦点を絞った。7種類のヒト肝癌細胞株について前述の遺伝子のmRNA/蛋白の発現状況を詳細に調べた。各種細胞株に対し各遺伝子に対するsiRNA導入の工夫・至適条件の検討を行った結果、各遺伝子を効率良くknockdownする系を確立できた。これらの遺伝子がknockdownされることで、関連する遺伝子も動的に変化すると予想される。そこで、siRNA導入前後での遺伝子変動に関して、mRNA/microRNA(miRNA)の網羅的解析を行った。膨大な情報量、mRNAとmiRNAとの相互関連性について現在解析中である。 遊走能・浸潤能の高い細胞株に対するIQGAP1のknockdownは、そのactivityを著しく低下させることを確認している。そのIQGAP1に比して、vimentinやCTGFのknockdownによる遊走能低下は有意に弱く、遊走能(癌転移)阻止にはIQGAP1のknockdownが有効と考えられた。しかし、CTGFのknockdownは浸潤能に影響を及ぼし、vimentinのknockdownはMET現象に関連していることがepithelial/mesenchy- mal markers及び形態学的変化から示唆された。ただし、EMT/MET現象に関してはcontroversialであり、更に検討を進めている。
3: やや遅れている
7種類のヒト肝癌細胞株において、IQGAP1、vimentin、CTGFをsiRNAで効率良くknockdownできる系・条件は確立できた。 現在、siRNAによるknockdown前後での細胞内miRNAおよびmRNAの動的な変化を網羅的に解析している。実際の実験結果とin silicoによる予測putative miRNA targetsが一致している遺伝子に関しては癌の遊走能・浸潤能にどのように関与しているかを解析中である。 一方、両者が必ずしも一致しているとは言えない遺伝子に関しては。いくつかの予測ソフトウェアの検証とknockdownの再検・再検証も併せて行っている。 今までにない新たな知見(予想していなかった知見も含む)も集積しつつあり、新たな機能や調整機構、またgene regulatory net-work での位置付けが明らかにされることが期待される。 したがって、当初の計画が分量的にやや多く、加えて実際の実験結果のデータが膨大であるため、結果的に「やや遅れている」としたが、24年度で調整可能と考えている。
IQGAP1に関しては、新たな機能解析を進める。siRNAによるknockdownのみではなく、細胞内導入による過剰発現により細胞機能・細胞形態・細胞内遺伝子がどのように変化するかの検討を行う。また、IQGAP1の発現をさらに効率良く抑制する方法:例えばsiRNAの改良やdeliveryの手段等も検討する。 上記の遺伝子に関して、遊走能・浸潤能等の癌細胞に特有の機能におけるgene regulatory network での位置付けを明確にし、癌細胞の遊走・浸潤機序を明らかにする。また癌細胞の悪性度進展:高分化→中分化→低分化に従い、それら遺伝子がどのように高発現するかを検討し、その過程でしばしばみられる抗癌剤への感受性低下に関する機序も研究する。 Vimentinに関しては、肝細胞においてEMT/MET現象が本当に起こり得るのかの命題を研究する。この現象は賛否両論があり、未だに明確な結論には達していないのが現状であるためである。
初年度の研究内容を継続すること、実験結果から新たに派生した検討項目、および従来計画していた研究内容に研究費を使用する。 主にsiRNAによる細胞内遺伝子の動態解析、特にmiRNAの動的変化とそれに関連するmRNA/蛋白の動的変化、miRNAの細胞内発現抑制および過剰発現による細胞機能の変化および形態学的変化について、研究費を重点的に使用する。
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