平成25年度は、申請段階における酵素化学的な研究に加え、TCF-4 isoformのnon-canonical Wnt pathwayに与える構造依存的細胞形質制御機構も探求することを計画した。まずTCF-4 isoformに内在する機能モチーフ「SxxSS」の先頭のセリン残基をリン酸化しうる酵素としてHIPK2 (Homeodomain-interacting protein kinase 2)を同定した。この酵素は「SxxSS」先頭の269番目のserine (S269)を最も顕著にリン酸化修飾することがわかった(Cancer Lett 2013;336:359-369)。さらに、この部位はTCF-4蛋白自体の安定性に深く関与していることがわかった。 3年間の研究全体を総括すると、以下の2点を明らかにすることができたと考えている。1)「SxxSS」モチーフの欠失はVHLの発現低下を介してHIF-2αの安定化を誘導し、癌細胞の低酸素耐性に寄与していること、2)「SxxSS」モチーフはHIPK2によりリン酸化修飾を受けることで、その機能が修飾されうること、である。ただ、付随したいくつかの実験で、このモチーフにはWnt5a/b発現を調節する機能や、低グルコース状況下での細胞増殖を調節する機能などの極めてユニークな機能があることがわかりつつあり、平成26年度以降の科学研究費(基盤C)の援助を受けながら、これらの興味深い点をさらに追求していく予定である。
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