研究課題/領域番号 |
23591002
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構下志津病院(臨床研究部) |
研究代表者 |
富澤 稔 独立行政法人国立病院機構下志津病院(臨床研究部), その他部局等, その他 (90334193)
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キーワード | iPS細胞 / 肝細胞 / 転写因子 / cDNAマイクロアレイ / ブドウ糖 / アルギニン / 糖新生 / 尿素サイクル |
研究概要 |
本年度はiPS細胞から肝細胞への分化を目指して遺伝子発現の差異を解析した。即ちiPS細胞と肝細胞でcDNAマイクロアレイ解析を行った。FoxA2等の肝細胞に特異的に発現している転写因子がiPS細胞では発現していないことが判明した。さらにpathway解析を行ったところ、Hedgehogが亢進しWnt pathwayが抑制されていることが判明した。今後はFoxA2等の転写因子をiPS細胞に導入し、Hedgehogの刺激剤とWnt pathwayの阻害剤を添加してiPS細胞から肝細胞への分化を試みる。 iPS細胞から肝細胞が分化した場合iPS細胞が混在した状態で移植すると奇形腫を発症し、癌化の危険がある。そのため肝細胞をiPS細胞から分離する必要がある。ブドウ糖、アルギニンは細胞の生存に必須である。肝細胞は糖新生、尿素サイクルによってガラクトース、オルニチンを基質としてブドウ糖、アルギニンを産生することができる。そこでブドウ糖、アルギニンを除きガラクトース、オルニチンを添加した培地(hepatocyte selection medium, HSM)で培養するとiPS細胞は3日で死滅する一方、肝細胞は生存することを見いだした。当初の計画では予定されていなかったがHSMは今年度の特筆すべき成果である。 HSMにminimum essential amino acidを添加するとiPS細胞は生存することを見いだした。一週間後AFPの発現が亢進しNanogの発現が低下していることを見いだした。驚くべきことにブドウ糖とアルギニンが存在しないとiPS細胞は肝細胞への分化を開始し糖新生、尿素サイクルを発現して生存すると考えられた。今後この培地を基に肝細胞への分化を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
cDNAマイクロアレイでは当初転写因子の発現の解析に焦点を当てていた。しかし遺伝子解析ソフト(GeneSpring)を用いるとsignaling pathwayが明らかになった。転写因子は導入されないiPS細胞は分化できない。しかしsignaling pathwayに関する試薬を添加すると100%の細胞に作用するので全てのiPS細胞を肝細胞へ分化させることが期待できる。iPS細胞から肝細胞への分化を目指した場合、肝細胞分化のメカニズムに関する知見が重要である。従来肝細胞分化のメカニズムはマウスを用いて解析してきたがヒトでは解する手段がなかった。今回のcDNAマイクロアレイでは肝細胞の分化に関する転写因子が明らかになったのでiPS細胞から肝細胞への分化を目指しす場合大変有用な基礎的データとなる。 HSMは本年度では予定していなかった。iPS細胞から目的の細胞を製造してもiPS細胞が微量ながら残存するので移植には使用できなかった。これまでiPS細胞を死滅させて目的の細胞を分離する方法が検討されてきた。薬品、遺伝子を導入、細胞の表面マーカーによりフローサイトメトリー、等である。これらは全てiPS細胞に人為的な操作を加えるので毒性が問題になる。しかしHSMは全て通常の細胞培養にもちいる成分から構成されるので肝細胞には毒性がありえない。細胞に極めてやさしいので今後iPS細胞から肝細胞を分離して移植する場合に必須の医薬品になる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
(ア) HSMにoncotatain M、epidermal growth factor、retinocic acid、hepatocyte growth factor、nerve growth factor等の各種増殖因子を単独で、または組み合わせで添加してiPS細胞を一週間培養する。RNAを抽出してリアルタイム定量PCR法にてAFP、Nanog、γ-GTPの発現量を解析する。AFP/Nanog、AFP/γ-GTPの比が最も高い条件を明らかにする。 (イ)前記(ア)にて明らかになった条件より抽出されたRNAと初代培養肝細胞から抽出されたRNAを用いてcDNAマイクロアレイを行う。特に肝細胞に特異的に発現する転写因子で前記(ア)に発現のみられないものを明らかにする。 (ウ)GeneSpringを用いて転写因子間の相互作用をpathway analysisを用いて解析する。またpathway analysisを用いて前記(ア)に比して初代培養肝細胞において増強または抑制されている細胞内刺激伝達系を明らかにする。 (エ)(イ)にて明らかになった転写因子のepisomal vector(Wako)を作成して導入する。導入後(ウ)にて明らかになった増強している細胞内刺激伝達系の刺激剤、または抑制されている細胞内刺激伝達系の阻害剤をhepatic HSMに添加して培養する。一週間後RNAを抽出してalbumin、ornithine carbamyltransferase、glucose-6-phosphodiesterase、alpha-1-antitrypsin等の肝細胞に特異的に発現している遺伝子の発現を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養試薬、cDNAマイクロアレイ解析、分子生物学実験試薬
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