研究課題
①臨床の肝動脈塞栓療法時に相当する低酸素(1% O2)・低栄養時における肝癌細胞株のEMTの状態およびPIVKA-II産生能の解析を行った。低酸素で培養した際にはPIVKA-IIを産生するが、さらに低栄養で培養すると肝癌細胞はvimentin陽性の細胞に変化し(肉腫化)、アルブミンなど肝特異的蛋白の産生およびPIVKA-IIの産生が低下した。また、これらの蛋白産生低下にはmammalian target of rapamycin (mTOR)経路が関連することをつきとめた。さらに、hypoxia inducible factor (HIF)-1alphaを定常的に発現する細胞(HIF-PLC)を作成し、上記と同様結果を確認した。これらの結果をJ Gastroenterologyに発表した。②肝癌分子標的治療薬ソラフェニブ投与時のPIVKA-II産生が知られているが、その機序の解明を行った。ソラフェニブ投与により肝癌細胞株の化学および低酸素刺激によるEMTは抑制されたにも関わらず、低酸素刺激下においてソラフェニブを投与してもPIVKA-IIは産生されたことより、低酸素刺激下におけるPIVKA-IIの産生はEMTだけではなく低酸素刺激そのものがPIVKA-II産生に関与するものと考えられた。また、その時のγ-カルボキシラーゼ のdeletion mutantも関与なかった。③臨床的画像とPIVKA-II産生、とくに造影効果に象徴される癌細胞への血流との関連を検討するため、造影腹部超音波検査または造影CT検査が行われている症例の肝癌切除標本の収集を行った。免疫組織化学染色にてPIVKA-II染色が陽性例に限って検討すると造影効果およびwashout効果とPIVKA-II産生は関連を認めた。このことはPIVKA-IIと分化度、血流との関与を考える上に重要な示唆と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今までの研究から、肝癌は化学的あるいは虚血刺激などにてEMTを起こすと癌細胞内のアクチンが断裂し、clathrin-mediated endocytosisが機能低下し、細胞内へのビタミンK取り込み低下が起こるとPIVKA-IIを産生し、さらにEMTが進行し、完全な間葉系変化(肉腫)が起こると肝細胞としての蛋白合成能が低下するためPIVKA-IIは逆に低下することをJ Gastroenterologyに報告した。一方、肝癌分子標的治療剤であるソラフェニブを肝癌患者に投与すると治療良好群でPIVKA-IIが上昇することが知られているが、我々はその機序を解明するために実験を行っている。すなわち、低酸素刺激下では、白羽連携研究者が報告したγ-カルボキシラーゼのdeletion mutantはPIVKA-II増加と関連ないが、ソラフェニブ投与(EMTを抑制)にてもPIVKA-IIは産生されることから低刺激そのものがγ-カルボキシラーゼを低下させ、PIVKA-IIを産生させるのではないかと考えている。造影超音波検査所見とPIVKA-II産生能については、肝癌の分化度、血流(虚血)とPIVKA-II産生には非常に興味ある関与が認められた。現在、論文作成に向けて症例数の増加および免疫組織化学染色を行っている。しかし、肝癌細胞の継時的な採取は人道的な問題もあり、難航しているのが現状である。この点については、研究機関内に研究目標を達成することは難しいと考えている。
前年度に引き続き、ソラフェニブ投与におけるPIVKA-II産生機序を中心に検討を加えていきたい。前年度までにある程度の方向性は見えてきたので、今年度はまとめの実験を行い、論文作成につなげていく。また、造影超音波検査における造影所見と免疫組織化学染色におけるPIVKA-II産生能の関係を検討すると分化度、および血流と非常に関連があることが分かった。さらに症例を増やして論文作成を行っていく。
次年度は、前年度の研究を継続して行っていくために研究費は主に消耗品に充てる予定にしている。研究に必要な機器は当研究センターに備えられており、新たな機器購入はない。また、研究結果を報告するために国内外の学会における発表のための旅費および論文作成に対する費用に充てたい。
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