研究課題
膵前癌病変PanINの発生から浸潤性の膵癌への進展過程においてオートファジーが持つ役割を、遺伝子改変マウスモデルを用いて明らかにすることを目的とし、PanIN発生マウス及び膵癌発生マウスへのオートファジーに必須な遺伝子Atg5のノックアウトを導入した。当科で所有しているPanIN発生マウス(膵臓特異的Kras変異ノックインマウス及び進行膵癌発生マウス(膵臓特異的Kras変異ノックイン/TGFbetaII型受容体ノックアウトマウス)にAtg5 条件的ノックアウトマウスを交配することにより、オートファジーが機能しないマウスを作製した。その結果PanIN発生マウスにおいてオートファジーの不全がPanINの発生を著しく促進した。しかし、膵癌への進展は明らかには促進されなかった。一方膵癌発生マウスにおいてオートファジー不全の導入により、マウスの寿命は有意に短縮された。現在オートファジー不全により起きる腫瘍発生の変化について分子生物学的解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
PanIN及び膵癌発生マウスとAtg5ノックアウトマウスとの交配を進めることにより、目的のマウスを相当数得ることができ、オートファジー不全によるPanIN及び膵癌の発生あるいは進展への病理組織学的な検討を順調に進めることができている。また、免疫組織科学的検討や遺伝子発現解析により、オートファジー不全の及ぼす分子病理学的影響についての解析を進めるているが、細胞増殖、アポトーシス、酸化ストレス、DNA損傷などの項目について十分な結論が得られるには至っておらず、今後も解析の継続が必要である。また、マウス膵組織の初代培養細胞株の樹立に成功し、今後、in vitroでのオートファジー不全の膵臓のがん化あるいは抗腫瘍薬抵抗性に及ぼす影響の検討を進める上での準備ができつつある。
PanIN及び膵癌の発生進展に関して、オートファジーの有無による組織学的表現型違いに寄与する分子機序を明らかにするため、前年度に引き続き上記PanIN及び膵癌発生マウスにおいて膵組織における病理組織像、免疫組織化学による解析を進めるとともに、遺伝子発現プロファイル及び血漿中のサイトカイン、ケモカインなどの液性因子分泌を検討するために、マイクロアレイ、サイトカインアレイ、ケモカインアレイを施行する。ここれらの遺伝子、サイトカイン、ケモカインの検討は樹立した初代培養細胞株でも行う。この際樹立したAtg5を欠損した膵癌初代培養細胞株にAtg5遺伝子を外来性に導入した細胞株を作製し、比較に用いる。また、汎用されるヒト膵癌細胞株においてAtg5遺伝子をshRNA発現レンチウイルスによりノックダウンした細胞も樹立し、マウス初代培養細胞株においてAtg5の有無により差異を認めた因子について、ヒト膵癌細胞株でも検証する。更にAtg5発現の有無あるいは高低により、抗腫瘍薬に対する感受性に差があるかを検討する。
引き続きPanINあるいは膵癌発生マウスとAtg5ノックアウトマウスの交配、維持を継続する必要があり、そのためのSPF施設でのマウス飼育費用が必要である。また、マウスの病理組織の検討や免疫組織化学による検討のために組織ブロック作製費、切片作製費が必要である。更に次年度はマウス初代膵腫瘍細胞培養株を用いた実験が増加するため、細胞培養関連製品の購入費用が前年度以上に必要となる。また、液性因子の検討のためのサイトカインアレイ、ケモカインアレイ、免疫組織化学関連試薬、一部の抗体などの購入費用も必要である。
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