研究課題/領域番号 |
23591011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池上 恒雄 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (80396712)
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研究分担者 |
伊地知 秀明 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70463841)
古川 洋一 東京大学, 医科学研究所, 教授 (20272560)
藤井 智明 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (10511420)
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キーワード | オートファジー / 膵臓癌 |
研究概要 |
膵特異的に恒常活性型Kras変異を発現させることによりマウス膵臓に前がん病変と考えられている膵腺房導管異形成(Acinar-ductal metaplasia; ADM)膵上皮内腫瘍性病変(Pancreatic intraepithelial neoplasm; PanIN)を生じることが知られているが、我々はこれまでにオートファジーに必須な遺伝子Atg5の欠損によりPanIN形成が著明に促進することを見出していた。しかしながら、PanINからの発癌はKras変異マウス及びKras変異+Atg5欠損マウスともにほとんど見られないことがわかった。そこで両群のマウスにおけるPanINの悪性度を既報に基ずいたPanINのグレーディングにより比較したところ、Atg5欠損はKras変異マウスのPanINの悪性度を促進しないという結果が得られた。一方Atg5欠損がKras変異マウスのPanIN発生時期を著明に早める分子機序を検討したところ、Atg5欠損によりMAPK経路の活性化が亢進すること及び酸化ストレス、DNA損傷も亢進することが認められた。またADM発生に重要であることが知られているSOX9の発現がKras変異に加えてAtg5が欠損することにより著明に早期から発現するようになることが明らかとなった。これらの結果からオートファジーは酸化ストレスやDNA損傷に対する防御機構として膵前癌病変の発生に対し抑制的な役割を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PanIN及び膵癌発生マウスとAtg5ノックアウトマウスとの交配を進めることにより、目的のマウスを相当数得ることができ、オートファジー不全によるPanIN及び膵癌の発生あるいは進展への病理組織学的な検討を順調に進めることができている。また、免疫組織科学 的検討や遺伝子発現解析により、オートファジー不全の及ぼす分子病理学的影響についての解析を進め、細胞増殖、酸化ストレス、DNA損傷などがオートファジー不全がそれらを亢進させることが明らかとなりつつある。また、マウス血清のサンプリングも進んでいる。 一方 in vitroの検討では、Kras変異マウス及びKras変異+Atg5欠損マウス膵組織の初代培養細胞株の樹立に成功し、Atg5の欠損の有無による遺伝子発現差異を検討するためのマイクロアレイも行ない、解析を進めている。 また、臨床検体でのオートファジーの評価のためのLC3の免疫染色実験系を構築中である。
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今後の研究の推進方策 |
PanIN及び膵癌の発生進展に関して、オートファジーの有無による組織学的表現型違いに寄与する分子機序を明らかにするため、前年度に引き続き上記PanIN及び膵癌発生マウスにおいて膵組織における病理組織像、免疫組織化学による解析を進める。また、遺伝子 発現プロファイルを検討するために施行中のマイクロアレイの解析を進める。血漿中のサイトカイン、ケモカインなどの液性因子分泌を検討するための、サイトカインアレイ、ケモカインアレイも引き続き進める。また、KrasG12DアレルのみCreによる組み換えが生じ、Atg5 floxアレルは組み換えが起きていない初代膵上皮細胞株が樹立できたため、in vitroでCreを発現させることによりAtg5を欠失させた細胞株も樹立に成功した。また、Atg5を外来性に発現回復させた細胞株も樹立済みであり、これらの細胞株を用いて、遺伝子発現、液性因子分泌の差異を検討する。 また、汎用されるヒト膵癌細胞株においてAtg5遺伝子をshRNA発現レンチウイルスによりノックダウンした細胞も樹立し、マウス初代培養細胞株においてAtg5の有無により差異を認めた因子について、ヒト膵癌細胞株でも検証する。 更にAtg5発現の有無あるいは高低により、抗腫瘍薬に対する感受性に差があるかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は今年度同様にPanINあるいは膵癌発生マウスとAtg5ノックアウトマウスの交配、維持を継続する必要があり、そのためのSPF施設でのマウス飼育費用が必要である。また、マウスの病理組織の検討や免疫組織化学による検討のために組織ブロック作製費、切片作製費が必要である。また、マウス初代膵腫瘍細胞培養株を用いた実験が更に増加するため、細胞培養関連製品の購入費用が今年度以上に必要となる。また、液性因子の検討のためのサイトカインアレイ、ケモカインアレイ、遺伝子発現変化の検討のためのマイクロアレイ、免疫組織化学関連試薬、一部の抗体などの購入費用も必要である。
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