研究概要 |
虚血性心疾患にともなう致死性不整脈の発症には遺伝的基盤の関与が示唆されている。我々は、日本人における遺伝的基盤を明らかにすることを目的に研究を行った。 急性冠症候群(ACS)の超急性期に心室細動が重積した10例においてSCN5Aの解析を行ったが、病態と関連する変異は同定されなかった。 一方、ACSの亜急性期に過度のQT延長をきたし多形性心室頻拍(torsades de pointes: TdP)を発症した症例(ACS-TdP) 4例において、KCNQ1, KCNH2, KCNE1, KCNE2, SCN5Aの解析行ったところ、2例にKCNQ1 G643S多型を同定した。本多型は、欧米人ではほとんど認めないが、アジア人ではアレル頻度で約10%認め、徐脈や低カリウム血症時にはTdP発症リスクを上昇させると報告されており、アジア人におけるACS-TdP発症の遺伝的基盤である可能性がある。最近、ACS-TdPを発症した欧米人13例中9例にKCNH2 K897Tを認めたことが報告されたが、本多型のアレル頻度も人種により異なることから、ACS-TdP発症の遺伝的基盤に人種差の存在も示唆された。 さらに、冠攣縮性狭心症にともない致死性不整脈を発症した8例において、上記遺伝子の解析を行った。3例中各1例にSCN5A R1193Q、SCN5A H558R/SCN5A L1988R、KCNH2 P10S/SCN5A H558R多型を同定した。これらの多型と本病態との関連は未解明であるが、SCN5A R1193Qは、アジア人で多く認める遺伝子多型であるがQT延長症候群やBrugada症候群との関連も指摘されており、急性虚血/再灌流時に機能異常が顕性化する可能性がある。 本研究により、日本人における虚血性心疾患にともなう致死性不整脈の発症には、他人種とは異なる遺伝的基盤の関与が示唆された。
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