研究課題
本研究は,ROCK活性の亢進がどのように動脈硬化の発症・維持・進展に影響を及ぼすかをトランスレーショナル研究によって検討するものである.(1)昨年度における遺伝子改変動物を用いた研究では,ROCK2ノックアウトマウスがROCK1ノックアウトと比して一過性中大脳動脈閉塞による脳虚血領域が有意に低下しており,またその機序は内皮細胞におけるeNOSの発現とリン酸化の亢進によるものであることを明らかにした.当該年度における研究では,ROCK2によるeNOS mRNAの安定化の制御について検討した。すなわち,ROCK2の阻害によってeNOSの発現と活性が共に亢進することで心血管疾患に対しては保護的に働くことが示されたが,その機序としてROCK2によるeEF1A1のリン酸化がeNOS mRNAの安定化を制御することを明らかにした。(2)当該年度における臨床研究においては,侵襲的な血管ROCK活性の代用として非侵襲的である白血球ROCK活性を用いて検討した。高血圧患者における検討において,アルドステロン阻害薬であるエプレレノン,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるロサルタンの投与により血管内皮機能障害は改善したが,Ca拮抗薬であるニフェジピンでは改善しなかった.一方でROCK活性における検討では,エプレレノン,ニフェジピンの投与によりROCK活性は低下したが,ロサルタンでは低下しなかった.以上より,ROCK活性は血管機能を反映するバイオマーカーとしては有用であるが,内皮機能検査とは一部異なった血管機能を表している可能性を報告した(Clin Pharmacol Ther. 2012).白血球ROCK活性のバイオマーカーとしての有用性を示すために,冠危険因子や心血管疾患を有する対象群における更なるクロスセクショナル研究,生活習慣改善や種々の薬剤を用いた介入試験を施行中である.
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変動物であるROCK1およびROCK2ノックアウトマウスを用いた研究では既にin vivoにおける検討データは全て揃いつつあり,in vitroにおける検討データ,すなわちメカニズムにおける検討においても順調にデータが出ている.臨床研究においても,まずは介入試験を主として行っているが,仮説通り,あるいは仮説に准じた結果が得られている.理由:順調に検討が進んでいる理由として,共同研究者や研究分担者とのコミュニケーションが非常に充実していることが挙げられる.
平成25年度は,1).ROCK1およびROCK2ノックアウトマウスより培養した内皮細胞を用いたin vitro検討,すなわちROCK2によるeNOS mRNA安定化の制御の機序について中心的に検討を行う予定である.2) 臨床研究では,非侵襲的な白血球ROCK活性による検討を中心として行う予定である.引き続いて対象は心血管病リスクを有さない健常人,および冠危険因子を有する明らかな心血管合併症を有さない軽症動脈硬化症例にて検討を行うが,薬剤や生活習慣の改善といったインターベンションによる介入試験やクロスセクショナル研究も引き続き行う.
平成25年度は,ROCK1およびROCK2ノックアウトマウスより培養した内皮細胞を用いたin vitro検討によってROCK2によるeNOS mRNA安定化の制御機序の解明,および臨床研究における白血球内ROCK活性の検討を同時に進めて行くのであるが,研究費はin vitroを中心として使用する予定である.
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