末梢動脈疾患による重症虚血下肢の治療には限界があり、特に血行再建術の対象とならない患者への治療法は確立していない。我々は、このような患者に対して、末梢血単核球移植術とアドレノメデュリン持続静注(1.5 pmol/kg/min、1日8時間×2週間)併用療法を考案した。アドレノメデュリン併用効果を厳密に評価するため、当初はプラセボを対象とした二重盲検法により臨床試験を開始したが、血管内治療の進歩により対象となる患者が極めて限定されるようになり、患者登録が停滞した。そこで、全ての患者に対してアドレノメデュリンを使用するオープン試験としたが、患者数は増えなかった。 試験全体で4名の患者に治療を行い、コード開封の結果、2名にアドレノメデュリンが、2名にプラセボが使用されていた。最終年度に2名の患者(アドレノメデュリンとプラセボ併用各1名)の最終追跡調査を行い、アドレノメデュリン併用患者では症状、血流指標等の改善が1年6ヶ月にわたり持続していた。他の2名のうち、プラセボを併用した患者は、末梢血単核球移植術後に病状が一時改善したが、数か月もせずに病状悪化し、最終的に足部の切断に至った。他の1名(アドレノメデュリン併用)は、患者都合により早期離脱し、追跡調査が実施不能となった。 本臨床研究自体は、末梢動脈疾患に対する治療状況の変化により集患が思うようにいかず、十分な成果を得ることができなかった。ただし、本研究を通して得られた様々な経験や知見は貴重な財産となっており、プロジェクトマネージャーとして現在進めている医師主導治験(難治性炎症性腸疾患を対象としたアドレノメデュリン製剤による医師主導治験)のプロトコール作成、対象患者の選定方法等の基礎をなしている。
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