研究課題/領域番号 |
23591072
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
田原 宣広 久留米大学, 医学部, 講師 (10320186)
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研究分担者 |
石橋 正敏 久留米大学, 医学部, 教授 (20168256)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | FDG-PET / 多列化CT / 炎症 / 冠動脈ステント |
研究概要 |
我々は、ステント留置後の局所炎症を18F標識fluorodeoxyglucose (FDG) をトレーサーとしたポジトロン断層撮影を用いて描出・定量化し、ステント留置後に起こる種々の問題点との関連について検討することを目的としている。平成23年度は、冠動脈近位部にステントを留置した症例を対象にFDG-PET/多列化CT検査を施行し、ステント留置部のFDG集積の評価が可能であるかどうか検討することを目標にした。これまでの経験では、虚血心筋のみならず、健常心筋においても心筋のFDG集積が認められる例があり、冠動脈における関心領域のFDG集積の評価を困難にすることがあった。この点については、今後の研究を遂行するにあたり、非常に重要な問題点になると考えられ、今回の検討における最重要課題点とした。ヘパリンは、血管内皮のリポプロテインリパーゼを遊離させ、血中の遊離脂肪酸を上昇させることが知られている。血中遊離脂肪酸の上昇により心筋の利用エネルギー基質がブドウ糖から脂肪酸へシフトすると考えられ、今回の検討では、心筋のブドウ糖代謝を低下させる試みとしてFDG投与前にヘパリン50 IU/kgを静脈注射した。ヘパリン前投与により血糖値やインスリン値に影響を及ぼすことなく、有意に遊離脂肪酸が上昇することが確認された。しかしながら、今回の検討にてヘパリン前投与をおこなっても心筋のFDG集積を認める例が存在し、ステント留置近傍の虚血心筋がブドウ糖代謝にシフトしていることが推察された。ステント留置部位におけるFDG集積の評価が可能であった例においては、FDGの集積程度が強い例ほど、慢性期の冠動脈造影においてステント部位における狭窄度が強かった。また、黄色調の病変が多く、ステント留置局所の炎症が、それらの結果に関連していると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FDG集積の評価が可能であった例では、FDG集積強度をstandarized uptake value (SUV)を用いて定量化した。FDGの排泄能が個人により異なることから、下大静脈相のSUV値を計測し、冠動脈における関心領域のSUV値を静脈SUV値で除した値をtarget-to-background ratio (TBR)として算出した。その結果、ステント留置部のTBRが高い例ほど、慢性期の冠動脈造影においてはステント部位における狭窄の程度が強く、血管内視鏡を用いた評価では黄色調の病変が多かった。統計学的検討をおこなう上で十分な症例数には達していないが、ステント留置局所の炎症がそれらの結果に関連していることが推察された。
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今後の研究の推進方策 |
前述のごとく、ヘパリン前投与のみでは、ステント留置近傍の心筋FDG集積を完全に抑制することが出来なかった。今後は、心筋のブドウ糖代謝を低下させ、関心領域周囲の心筋FDG集積を最小限に努める方法として、β受容体遮断薬やカルシウム拮抗薬の使用、または、FDG投与前の高脂肪食摂取などを試みる予定である。経皮的冠動脈形成術後の再狭窄、急性冠症候群や遅発性血栓症の発症などの問題には、病変における炎症が関与していると言われており、今後は症例数を重ねて、経皮的冠動脈形成術をおこなった病変やステント留置部位の局所的な炎症の評価を試みる予定である。現在までの所、急性冠症候群や遅発性血栓症の発症は認められていないが、観察期間の延長により出現してくる可能性があり、FDG集積強度と関連しているかどうか検討することが可能になるのではないかと思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度において、次年度使用額が生じた理由として、ヘパリン前投与のみでは、ステント留置近傍の心筋F¥DG集積を完全に抑制することが出来ず、症例数を重ねることを躊躇したことが挙げられる。今後は、前述の方策により症例数を重ね、高感度CRPを含む炎症マーカーや血管内皮機能マーカーを症例登録時と慢性期に測定するために外注検査、ELIZA kitや試験試薬に対して研究経費を計上する方針である。
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