研究課題/領域番号 |
23591077
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
奥村 謙 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20185549)
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研究分担者 |
長内 智宏 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00169278)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 循環器・高血圧 / 冠攣縮 / P122蛋白 / phospholipase C / R257H亜型PLC-δ1 |
研究概要 |
【背景・目的・方法】血管平滑筋細胞膜Phospholipase C(PLC)が刺激されると細胞内カルシウムイオン濃度が上昇し収縮シグナリングが起動する。我々は冠攣縮性狭心症(CSA)患者から得られた培養皮膚線維芽細胞において膜分画PLC活性が亢進していること、PLC活性と冠動脈のbasal toneおよび収縮刺激に対する反応性が正相関を示すこと、膜分画PLCの主体がPLC-δ1であることを既に報告した(J Am Coll Cardiol 2000)。本研究ではPLC-δ1活性を制御(亢進)するp122(DLC1)蛋白に着目し、CSA患者とコントロール例でp122の遺伝子および蛋白発現を比較検討した。さらにPLC活性を亢進させるヒトR257H亜型PLC-δ1を血管平滑筋特異的に過剰発現させたマウス(PLC-TG)を作成し、亜型PLC-δ1の導入が果たして冠攣縮に至るか検討した。【結果】CSA患者から採取された培養皮膚線維芽細胞においてp122遺伝子発現と蛋白発現がコントロール例に比して有意に亢進していた。PLC活性との関連を見ると、大動脈平滑筋細胞にp122蛋白を過剰発現させるとPLC活性が亢進し、さらにアセチルコリン刺激に対する細胞内カルシウムイオン濃度が上昇していた。一方、PLC-TGマウスの冠動脈、大動脈ならびに腸間膜動脈のPLC活性が野生型と比べて有意に亢進しており、エルゴメトリン投与により心電図ST上昇ならびに高度房室ブロックが観察された。ランゲンドルフ灌流実験では、PLC-TGマウスの冠動脈灌流圧は野生型に比してエルゴノビン投与により有意に上昇した。【結論】(1)PLC-δ1活性亢進の機序の一つとしてp122蛋白の発現亢進が示唆された。(2)我々が作成したPLC-TGマウスは、臨床例に近似したCSA動物モデルと考えられた(Circulation 2012)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p122蛋白はPLC-δ1活性を亢進させる調節因子でありが、冠攣縮性狭心症患者から得られた培養皮膚線維芽細胞においてp122遺伝子発現と蛋白発現が亢進していること、ヒト冠動脈平滑筋細胞において、p122蛋白過剰発現によりPLC活性が亢進し、アゴニスト刺激に対する細胞内カルシウムイオンが上昇すること、さらにp122遺伝子の5’側promoter解析により、-228G/Aならびに-228A/A変異が冠攣縮性狭心症男性患者の約10%で認められ、それらの変異によりpromoter活性が亢進することを明らかにした(Arterioscler Thromb Vasc Biol 2010)。 PLC活性を亢進させるヒトR257H亜型PLC-δ1(Circulation 2002)を血管平滑筋特異的に過剰発現させたマウスを作成した(PLC-TG)。このマウスの冠動脈、大動脈ならびに腸間膜動脈ではPLC活性が野生型マウスと比べて有意に亢進していること、PLC-TGマウスにアゴニスト(エルゴメトリン)を投与すると体表面心電図にてST上昇ならびにそれに続く高度房室ブロックが誘発されること、Microvascular filling法によりアゴニスト刺激による冠動脈攣縮が誘発されること、ランゲンドルフ灌流実験においてPLC-TGマウスの冠動脈潅流圧は野生型に比してエルゴノビン投与後に有意に上昇することを明らかにした。PLC-TGマウスは、臨床例に近似した冠攣縮性狭心症動物モデルであると考えられた(Circulation 2012)。 以上の研究成果より、本研究は順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
1.PLC-TGマウスで観察された冠攣縮に及ぼすカルシウム拮抗薬の影響の検討 我々が作成したPLC-TGマウスを用いて、エルゴノビン投与により誘発された冠攣縮がカルシウム拮抗薬の投与により抑制されるかどうかを、心電図変化(心拍数やST-T変化、房室ブロック)により検討する。2.細胞内カルシウムイオンの反応性におけるAKAP79/150とPKCの役割:in vitroにおける検討 HEK-293細胞に正常PLC-δ1とムスカリンM1受容体遺伝子をtransfection後、アセチルコリン刺激に対する細胞内遊離カルシウムイオンの反応性について、fura-2を使用し分光蛍光光度計にて測定する。細胞内遊離カルシウムイオンの反応性におけるAKAP79/150の役割を検討するため、AKAP79/150発現をsiRNA法により抑制し、同様の方法にて細胞内遊離カルシウムイオンを測定する。AKAP79/150とPKCの細胞内遊離カルシウムイオンの反応性に及ぼす影響、特に細胞外からのカルシウムイオン流入におけるAKAP79/150とPKCの役割を検討する。3.冠攣縮におけるAKAP79/150の役割:in vivoにおける検討 AKAP-KOマウスを米国MMRRC(Mutant Mouse Regional Resource Center)より購入中である。PLC-TGマウスとAKAP-KOマウスを交配し、PLC-δ1過剰発現AKAP-KOマウス(PLC-AKAPマウス)を作成する。大動脈、心臓、腎臓のL型カルシウムイオンチャネル、PLC-δ1、AKAP79/150の遺伝子発現ならびに蛋白発現をReal-time PCR法ならびにWestern blotting法にて検討する。また各臓器の組織像についての検討も併せて行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.PLC-TGマウスで観察された冠攣縮に及ぼすカルシウム拮抗薬の影響の検討 マウスの管理維持費用、試薬および薬剤購入費用として使用する。2.細胞内カルシウムイオンの反応性におけるAKAP79/150とPKCの役割:in vitroにおける検討 HEK-293細胞購入費用、試薬および薬剤購入費として使用する。3.冠攣縮におけるAKAP79/150の役割:in vivoにおける検討 AKAP-KOマウス購入費用、試薬および薬剤購入費として使用する。
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