研究概要 |
全身組織に広く分布するDPP4分子は110KDa の膜蛋白であり、細胞外領域にセリンプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)酵素活性部位を有する。DPP4の発現は全身臓器に認められ、自検結果では、心臓におけるその発現は心臓毛細血管に局在することを我々は証明した。DPP4活性は、細胞膜上以外にも可溶性タンパク質として血液中にも存在しており、様々な種類の生理活性物質を分解することにより糖尿病、炎症、免疫機能など生体機能の調節に深く関わることが知られ、心血管系における作用については、血管生促進サイトカインSDF1α分解制御に関わることが示唆されてきた(Cell Stem Cell 2009)。 [これまでの研究成果・準備状況] これらをうけて、申請者らは、糖尿病による心筋障害(糖尿病性心筋症)におけるDPP4の役割に着眼し解析を行った。糖尿病性心筋症の典型的病理組織変化である心筋線維化亢進と心筋毛細管新生低下にも、このDPP-4を介したケモカイン調節経路が関与していると仮説し、DPP4先天欠損ラットとその野生型ラットを糖尿病化し心機能や病理変化を解析したところ、糖尿病化した野生型ラットでは上記 の典型的病理組織変化に加え毛細血管新生低下や心筋DPP4活性亢進を認め、糖尿病性心筋線維化亢進や心筋毛細血管密度低下は抑制され、心臓内の微小還流障害とそれに続発する心筋虚血が生じることを明らかにした。一方、DPP4欠損ラットでは糖尿病化によりこれら変化を認めなかった。以上の成果を国際学術雑誌に報告した(Cirulation 2012,126, 1838)。また非糖尿病心不全におけるDPP4の役割を検討し、糖尿病の合併にかかわらず心不全ではDPP4血漿活性が上昇していることを明らかにした(日本循環器学会、心不全学会口述発表)。
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