研究課題
概要再生医療による心血管疾患治療戦略において、成人幹細胞・前駆細胞から効率よく心筋細胞に分化させる方法は確立されていない。こうした中、非古典的Wntタンパクが成人幹細胞・前駆細胞の心筋遺伝子発現を増加させることが分かってきたが、下流のシグナルは不明であり、これを明らかにすることで心筋再生の効率化をはかることが期待される。申請者はWnt5a刺激で増加する遺伝子を、マイクロアレイ法を用いEPCで検討した。するとヒストンのメチル基を修飾する種々の酵素が増加すること、ヒストンのメチル化が変化することを見出した。したがって、非古典的Wntが、エピジェネティックなメカニズムを介して遺伝子の発現を制御している可能性が示唆される。エピジェネティック修飾による遺伝子発現調節はいまだ十分に解明されておらず、したがって、非古典的Wntとエピジェネティック修飾が遺伝子発現調節に関わることを検証し、効率のいい分化方法を見出そうと企画した本研究は、将来の心臓血管生物学のみならず幹細胞生物学に多大な貢献を果たすことと期待される。また、幹細胞生物学の領域で、どのように心筋細胞の分化が制御されるかということは一大命題であり、特に骨髄由来幹細胞に代表される成人幹細胞の心筋細胞への分化効率が増加すれば臨床での有用性は高まり梗塞心や拡張型心筋症などの心筋細胞への再生療法として発展することが大いに期待できる。本研究では、非古典的Wntのエピジェネティック変化による心筋遺伝子の発現制御を検証したい。
3: やや遅れている
申請書の研究目的にそって実験を行った。1)どのようなエピジェネティック修飾因子が非古典的Wntによって増加するか:マイクロアレイによる予備実験では、Wnt5aはEPCにおいて種々のエピジェネティック修飾因子、すなわちヒストンリジンメチル化酵素(MLLとNSD1)とヒストンリジン脱メチル化酵素(JMJD2ファミリー)の増加を認めていた。このことを確認するためにRT-PCRおよびウエスタンブロットを行い、発現レベルを確認した。非古典的Wntが他の細胞種でもエピジェネティック修飾因子を増加するかどうか、マウスおよびラットの成人幹細胞・前駆細胞である間葉系幹細胞(MSC)とマウスES細胞、ヒトMSCで確認を行ったが、予想に反し、造血幹細胞系でのみエピジェネティック変化が認められたため、当初の予定を変更し、そのメカニズムを追求する。設定の変更のためやや遅れている。2)非古典的Wntはエピジェネティック修飾をきたすのか?そうであればどのようなものか?:クロマチンの活性化因子であるアセチル化ヒストンH3とトリメチル化されたH3リジン4番、抑制因子であるトリメチル化されたH3リジン9番と27番のEPCにおけるWnt5aによる変化を蛋白発現レベルで確認した。心筋遺伝子のプロモーターのうち、TNNT2のエピジェネティック修飾様式をクロマチン免疫沈降法で確かめた。心筋遺伝子以外のプロモーター、eNOSや2型VEGFレセプターは非古典的Wntによりヒストンリジンのメチル化様式が変化しないことが分かった。免疫沈降法による実験は1)で述べたのと同じ理由でやや遅れている。
申請書の研究目的にそって実験を行う予定である。やや遅れている実験を終了し、さらに実験を推進する予定としている。クロマチン免疫沈降法により、心筋特異的反応性を有するのかを見る実験の数を増やし、確認する予定である。心筋分化の過程で内因性ヒストン脱メチル化酵素発現は内因性Wnt発現と相関して変化するのか?:ES細胞および成人幹細胞・前駆細胞を用い、ヒストン脱メチル化酵素の発現変化を心筋分化の過程を経時的に調べる予定としている。また、JMJD2Bと2Cの過剰発現を行い、心筋分化が増加するか、エピジェネティック修飾、特に心筋遺伝子のプロモーター領域の修飾様式が変化するかを確認する。心筋分化の定量は、定量的PCR法、フローサイトメトリー法を用い計測を行う。また、JMJD2の機能を調べるために遺伝子過剰発現のみならず、遺伝子抑制試験も行う。そのため、siRNAやshRNA導入法を計画している。
造血幹細胞での変化が主体であることが明らかになったので、細胞を購入する費用および試薬が主な研究費の内容である。学会参加および意見交換、論文作成のための費用も計上している。
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