研究課題/領域番号 |
23591089
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
吉村 道博 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30264295)
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キーワード | 循環器 / 病態生理 / 生理活性物質 |
研究概要 |
①心不全ではrenin-angiotensin-aldosterone系が亢進しているが、その病態生理学的意義は未だ不明な点が多い。特にアルドステロンの意義に関しては未だ十分な検討がなされていない。臨床的にはアルドステロンの阻害が高血圧や心不全治療に有効であるが、そもそもアルドステロンの生理作用が如何なるものかについては大きな疑問として残っている。最近、我々はアルドステロンが高浸透圧状態の時の細胞脱水に対してNHE1を介して短期的に細胞保護的に働くことを報告している。現在はさらに深くアルドステロンの生理作用の検討を進めているが、興味深い事にアルドステロンが糖代謝に深く影響を与えている可能性を見出した。またアルドステロンは副腎にて合成されているが、心臓、血管、腎臓、脳でもごく僅かながら合成されていることが報告されている。我々はラットおよびヒトでの心筋細胞でアルドステロンの合成を見出しているが、本研究においては心臓アルドステロンの合成制御にかかわる因子に関して検討を行った。 ②さらに、我々は仔ラット培養心筋細胞を用い、in vitroでのアルドステロンの心筋に対する直接的作用について、インスリンシグナルを中心に検討を重ねてきた。その結果、アルドステロンはインスリンシグナルを短期と長期、二相性に活性化させる可能性が示唆された。これらを受けて、本研究では心臓組織における、アルドステロンの効果を特に短期非ゲノム作用に焦点をあて、Langendorff摘出心灌流実験を用いて検討した。アルドステロン短時間刺激による心臓組織におけるインスリンシグナル活性について、リン酸化などを中心とした分子生物学的手法により評価し、さらに左室圧及び虚血再還流後の左室圧回復を測定し、アルドステロンの直接的効果について心機能の面からも評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①仔ラット初代培養心筋細胞でのアルドステロン合成酵素CYP11B2の発現について、高血糖を増幅因子として時間経過による変化、濃度変化による変化を中心に検討を続けた。高血糖刺激(25mM)によりアルドステロン合成酵素の発現に上昇がみられた(4時間にピークを認めた。培養細胞のmedium中に分泌されるアルドステロンについても評価し、4時間値にて約1.25倍の分泌を認めた。しかしこの分泌は8時間値では差がみられなくなり、短期時相でのparacrineもしくはautocrineを反映しているものと思われた。 ②Langendorff摘出心灌流にて、アルドステロン短時間刺激による心臓組織におけるインスリンシグナル活性をリン酸化中心とし、P-AKT, P-GSK3β, GSK-3βの発現量で評価を行った。GSK-3βでは差は認められなかったが、P-AKT, P-GSK3βはAldosterone perfusion郡で多く発現していた。 アルドステロンの短時間刺激はAKTを介していることが示唆された。次に仔ラット心筋細胞を用いて、アルデステロン刺激によるレニン、(プロ)レニン受容体の発現を検討し、レニン、(プロ)レニンのmRNAがマウス心筋培養細胞で認められることを示した。アルドステロンの低濃度刺激によりレニン、(プロ)レニン受容体のmRNAの発現量が増加する傾向がみられ、ポジティブフィードバックの存在が示唆された。また、抗アルドステロン薬(エプレレノン)投与での発現量の変化を検討し、プロレニンとアルドステロンの関係解明を目指す。また、Langendorff摘出心灌流実験を用いて、ex vivoでもアルドステロン刺激におけるプロレニン、(プロ)レニン受容体の発現量を測定を行ったが、hall heartを用いた系に置いてもプロレニンの発現量は少なく、評価は困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
①CYP11B2に関して蛍光免疫染色による細胞内の同酵素の発光もコントロール培養細胞にて確認しえたが、高血糖による増幅などは確認しえず、時相の確認や培養細胞密度など含めさらなる検討を行う。6時間や12時間といった遅れた時相においての質量分析計による測定や、ウエスタンブロット法による蛋白発現の確認を行う。またHDLコレステロールによる刺激においては結果のばらつきが大きく、高血糖による修飾も含めて系の安定、確立を目指して検討を重ねていく予定である。以上、ごく微量ながらも高血糖刺激による心筋細胞のアルドステロンの合成、分泌の反応を確認しえたことから、心臓におけるアルドステロンの動態を生理的、病理学的な側面より深く究明していくため、来年度も引き続き検討を重ねていく予定である。 ②プロレニン、(プロ)レニン受容体mRNAの発現量にバラツキが多く、発現量も少ないため、糖濃度、Na濃度の条件を様々に振り分けて、アルドステロン刺激についての至適条件を確立する。 アルドステロンの生理的作用をインスリンシグナルの観点から捉えたところで、最終的には糖尿病モデル動物を用い、病態生理学的作用について追究していく。糖毒性に曝された心臓はインスリン抵抗性であり、通常著名な虚血再還流障害を認めるが、これに対しアルドステロンが短期非ゲノム作用を通じてインスリン受容体を介さずにインスリンシグナルを活性化することで虚血中の糖代謝を改善し、加えてインスリンシグナルそのものの抗細胞死効果を発揮する可能性について検討する。この心保護効果については虚血再還流後左室回復圧や梗塞サイズ測定、心筋逸脱酵素濃度測定により評価していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
Langendorff摘出心灌流実験を用いた実験における各種遺伝子(CYP11B2 CYP11B1,HSD3B2等)発現の検討のため、動物購入代・飼育費、定量的RT-PCRに必要な各種消耗品が必要となる。さらに、心筋組織全体でのアルドステロン刺激におけるプロレニン、(プロ)レニン受容体の発現量、またそれ以外のRAA系の各コンポーネントであるAII、ACE、AT1受容体、ミネラロコルチコイド受容体、グルココルチコイド受容体、ACE,ACE2の発現検討のため、定量的RT-PCRおよびウエスタンブロッティングに必要な消耗品を購入する。また、昨年度に行った培養細胞の実験を引き続き発展させる必要があり、そのため初代心筋細胞培養のための消耗品、培養に必要な消耗品、定量的RT-PCRに必要な各種消耗品を購入する。
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