研究課題/領域番号 |
23591091
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
西井 明子 (関 明子) 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80408608)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ギャップジャンクション / パリティ保証機構 / コネキシン45 / 洞結節 |
研究概要 |
心臓のペースメーカーとして重要な洞結節において、形態も発火頻度も一様ではない細胞群が一定のリズムを形成できるのは、細胞間を連絡しているギャップジャンクション(GJ)によるエラー訂正機能(パリティ保証機構)があるためであると我々は考えている。本研究の目的は、洞結節におけるGJの役割とパリティ保証機構について検討を進め、GJ機能を修飾して洞機能不全症候群の治療につながる基礎的データを得ることである。 平成23年度は、マウス成体において、刺激伝導系に特異的に発現しているGJ蛋白、コネキシン45(Cx45)のノックアウト及び電気生理学的検査(食道ペーシング)を行った。Cre-変異エストロゲン受容体(ER1α)マウスとFloxCx45マウス(Cx45遺伝子をloxP配列で囲んである)の交配により得られたER1α-FloxCx45マウスに、タモキシフェンを投与すると、Cre蛋白を発現しCx45遺伝子が心筋特異的にノックアウトされる。ER1α-FloxCx45マウス群とFloxCx45マウス群(コントロール)について、タモキシフェン投与前後に食道ペーシングを行い、洞結節および房室結節機能を評価した。 ER1α-FloxCx45マウス6例において、洞結節回復時間はタモキシフェン投与後に有意に延長した(投与前:186.0±10.0 msec vs. 投与後:241.7±11.2 msec, n=6, P=0.003)。コントロール群では有意な変化はなかった。房室結節機能(Wenckebach及び2:1ブロック出現レート)、心房バースト刺激による心房細動誘発率及び心房筋の不応期は、投与前後で明らかな差を認めなかった。これらの結果から、洞結節のCx45は、洞結節機能において重要な役割を果たしていることが示唆された。このような結果は私の知る限りでは、国内においても海外においても未報告と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、マウスの交配が順調に進み、希望の遺伝子型(ER1α-FloxCx45マウス)を得ることができた。タモキシフェン投与によるCx45の心臓特異的なノックアウトを行い、X-gal染色により洞結節及び房室結節のLacZ発現(=Creの発現)を確認した。これらのマウス及びコントロール群について、電気生理学的検査を行い、洞結節回復時間の有意な延長が認められた。このような変化はコントロール群ではみられなかったことから、Cx45が洞結節のパリティ保証機構において重要な役割を果たしていることが示唆された。出産、育児による6か月のブランクがあったため、電気生理学的検査と結果の解析はまだ予定の全部は終了していないが、Cx45のノックアウトが洞結節機能に影響することを示すことができ、研究の達成度はおおむね順調と考えている。 また、当初の研究計画には含まれていなかったことであるが、Cx45の発現により活性が制御されるNFATC転写因子についての予備実験も、平成23年度内に行うことができた。NFATCは、細胞内カルシウムの上昇によって細胞質から核内へ移行するが、Cx45による細胞間の連絡が、隣接する細胞のNFATCの核内への移行を促進することが予想されるため、このことが細胞外の環境の変化に対して洞結節全体のCx45の発現量を素早く調節し、洞結節からの高頻度の出力を可能にしている可能性がある。実際にCx45を発現した細胞群では、Cx45を欠く細胞群に比較して、隣接する細胞の核内移行が速く起こる傾向がみられた。Cx45により構成されるGJチャネルの、転写因子を含むパリティ保証機構については、私の知る限り国内においても海外においても報告がなく、この研究課題をより深く掘り下げるきっかけを作れたことは、平成23年度の大きな収穫であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降は、電気生理学的検査とその結果の解析を終了させ、次に細胞電気生理学的検討(Cx45電流とイオンチャネル)に入る予定である。また、先に述べたNFATCの核内移行についての実験も、並行して進めたいと考えている。1. 細胞電気生理実験:mT/mGマウスは,もともと全身に赤色の蛍光色素であるtdTomatoを発現(mT)しているが、Cre遺伝子が導入されると,mTは発現しなくなり、緑色のGFPが発現(mG)するようになる。この性質を利用して,ER1α-FloxCx45マウスをmT/mGマウスと交配し、 CreとtdTomato が組み込まれた個体を選び、タモキシフェン投与群、非投与群について、パッチクランプ法によって、それぞれの洞結節細胞のCx45の細胞間コンダクタンスを測定し、組換え体でCx45電流が欠失していることを確認する。また、洞結節の活動電位形成に重要な役割を果たすCa電流、過分極誘発電流(If)についても、パッチクランプ法による電流解析を行う。これらのイオンチャネル電流に変化がなければ、ER1α-FloxCx45マウスの洞結節の機能低下は、Cx45の欠失によるものであることを証明できると考える。2. Cx45の発現調節についての実験:蛍光で標識したNFATC(Tomato-NFATC)と、(1)CMV-Cx45-IRES-GFPまたは(2)CMV-IRES-AcGFPをN2A細胞にダブルトランスフェクションする。tomatoとGFPの発現を確認後、ガラス電極を用いて高濃度のカルシウム溶液またはIP3を細胞内に注入し、注入した細胞と隣接する細胞におけるNFATCの核内移行を、蛍光カメラでタイムラプス撮影し、Cx45の有無による差について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、出産による6か月のブランクがあったこともあり、研究を中断せず遂行するには研究補助員の助けが必要であった。そのため研究費は、物品費の他に、一部を人件費として支出した。研究補助員がインフルエンザで欠勤したことがあったため、支出額が当初の予定支出額を下回り、次年度使用額10,391円が生じた。この繰り越し金額と平成24年度交付額とを用いて、今年度の実験に必要な物品を購入するが、実験項目が当初予定より増えたこともあり、研究を支障なく遂行するために引き続き研究補助員の助けが必要であるので、人件費の支払いも行いたいと考えている。
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