研究課題
心不全の病態の多様性に対応するために、本年度は前年度に実施した高頻度ペーシングによる非虚血性心不全モデルおよび陳旧性心筋梗塞による虚血性心不全モデルの双方において得られた心筋サンプルを用いて、DNAマイクロアレイ法による網羅的な遺伝子発現の解析を行った。その結果、非虚血性心不全モデルの心筋において代償性心不全期に2倍以上発現が増加した遺伝子は、多彩な心血管保護作用を有する内因性生理活性物質であるBNPやアデノシン産生酵素(ecto-5’-nucleotidase)を含めて184個認められた。その一方で、1/2以下に発現が低下した遺伝子はアデノシン分解酵素(adenosine kinaseおよびadenosine deaminase)を含めて121個認められた。また、心不全回復期において2倍以上の発現増加が認められた遺伝子は38個と代償性心不全期に比して少なく、BNPやアデノシン産生酵素は、代償性心不全期に発現が増加し、回復期には低下することが明らかになった。さらに非虚血性心不全モデルにおいて、内因性ストレス感受性因子であるAMP-activated protein kinase(AMPK)を活性化する薬剤(AICAR)を投与することによりにより、左室系の拡大と左室駆出率の低下が抑制されたが、AICAR投与により2倍以上発現が増加した遺伝子は、AMPKを含めて38個認められた。その一方で、1/2以下に発現が低下した遺伝子は51個認められた。また、陳旧性心筋梗塞による虚血性心不全モデルでは、ICAM-1、IL-6、VEGF receptorsの発現増加が特徴的であった。DNAマイクロアレイ法により発現変化を認めた遺伝子群については、Tag man probeを用いた定量PCRで発現の変動を確認した。
2: おおむね順調に進展している
先に提出した交付申請において、当該研究課題である「心不全の基礎疾患と病期を考慮した新しい包括的心不全治療法の開発」を遂行するために、平成23年度は、大動物実験プロトコールとして、1) 非虚血性心不全モデル(右室高頻度ペーシング)におけるAMPK活性化剤の心不全改善効果の検討、2) 虚血性心不全モデル(陳旧性心筋梗塞)におけるAMPK活性化剤の心不全改善効果の検討の2項目を実施計画に掲げ、平成24年度は平成23年度に得られた心筋サンプルを用いて、DNAマイクロアレイ法による網羅的な遺伝子発現の解析を実施計画に掲げた。現在までに、前述の研究実績の概要に示すように、当初の計画通り、大動物(ビーグル犬)を用いた右室高頻度ペーシングによる非虚血性心不全モデルおよび陳旧性心筋梗塞による虚血性心不全モデルの双方のプロトコールを実施し、AMPK活性化剤が双方のモデルにおいて心不全の発症や進展を抑制することを明らにし、さらに双方のモデルにおいて心不全の進展・回復の各時相とAMPK活性化剤の投与における遺伝子発現の変化を明らかにできたことから、おおむね順調に進展していると評価した。
平成23年度及び平成24年度の研究計画はおおむね順調に進展している状況である。当該研究課題である「心不全の基礎疾患と病期を考慮した新しい包括的心不全治療法の開発」を遂行するために、平成25年度は、特定遺伝子のプロファイリングを行う予定である。具体的には、発現変動が確認された遺伝子群が既知の遺伝子の場合、心不全やAMPK、BNP及びアデノシンとの関連があるかをゲノムブラウザーで検索する。得られた遺伝子群については、Gene Ontologyを参照して分子機能、生物学的プロセス及びcellular componentについて検索する。一方、未知の遺伝子群については、SMARTを用いてドメイン構造を検索する。さらにドメインが明らかでない場合には、PROSITEを用いてモチーフが存在するか否かを検索することにより得られた遺伝子群の機能を推定する。これらの一連の検討により、虚血性及び非虚血性心不全に対するAMPK、BNP及びアデノシンの標的分子を中心とした心不全の発症・進展抑止及び心不全改善効果のメカニズムが明らかとなり、新しい包括的心不全治療法の開発につながるものと考える。
該当なし
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 図書 (3件)
Cardiovasc Drugs Ther.
巻: 26 ページ: 217-226
10.1007/s10557-012-6381-5.
Circ J.
巻: 76 ページ: 2372-2379
Hypertens Res.
巻: 35 ページ: 843-848
10.1038/hr.2012.42.
日本冠疾患学会雑誌
巻: 18 ページ: 245-251
日本臨床
巻: 70 ページ: 301-308
Diabetes Frontier
巻: 23 ページ: 53-58