研究課題
虚血、圧負荷、感染や薬剤などのストレスによって心筋は障害を受け、心筋障害は心不全の要因となる。JAK経路を活性化するサイトカインがこれらの心筋障害を抑制することが知られている。我々はSOCS (suppressor of cytokine signaling)によるJAK経路の抑制機構を報告し、心筋特異的にSOCSの発現を抑制することによりストレス環境下における心筋障害が抑制できることを明らかにしている。本研究では、心筋のSOCS抑制による心筋保護機構を明らかにし、心筋保護に関わる新たな遺伝子の同定を行。平成23年度は、心筋梗塞後心不全モデル、虚血再灌流心筋障害モデル、エンドトキシン急性心不全モデルにおける、JAK-STAT-SOCS経路の活性化について検証した。また、心筋特異的SOCS3ノックアウトマウス(SOCS3-CKO)にこれらのモデルを作成し、循環生理学的解析、生化学的解析、組織学的解析等を行い、これらの病態におけるJAK-STAT経路とSOCS3の役割について検討した。いずれのモデルにおいても、STAT3を活性化するサイトカイン(IL-6, LIF, G-CSFなど)の発現が心臓で高度に発現していた。STAT3のリン酸化とSOCS3の発現もこれらのモデルで観察され、SOCS3-CKOではコントロールマウスと比較し、心筋梗塞後リモデリング、虚血再灌流心筋障害、エンドトキシンによる急性心不全が優位に抑制された。SOCS3-CKOにerythropoietinを投与によって、SOCS3-CKOにおける心筋障害はさらに抑制された。このように、心不全の要因となるストレスによる心筋障害にJAK-STAT-SOCS経路が深く関わることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
心筋梗塞後心不全モデル、虚血再灌流心筋障害モデル、エンドトキシン急性心不全モデルなどの心不全モデルを確立できている。特に、虚血再灌流による心筋障害の評価を行うためのエバンスブルー・TTC染色の手技は、循環器領域の実験手技において最も難易度が高いといわれているが、再現性をもってきれいな染色ができるようになっている。Real-time PCRによるJAK-STAT3を活性化するサイトカインがこれらのモデルで高度に上昇していることを見いだし、STAT3の活性化とSOCS3の発現が逆相関することから、これらの病態において、我々が焦点をあてている細胞内情報伝達経路とその制御系が深くかかわっていることを明らかにすることができた。さらに、SOCS3-CKOでは、心筋梗塞後リモデリング、虚血再灌流心筋障害、エンドトキシンによる急性心不全が抑制されることを見いだすことができており、これらの病態における治療標的にSOCS3がなり得ることが示すことができた。さらに、SOCS3が心筋特異的に欠失している状態では、erythropoietinなどのサイトカインの心筋保護効果が高まることがわかり、急性心筋梗塞のサイトカイン療法におけるSOCS3の重要性も明らかにできている。このように、当該年度の達成度としては概ね順調であると考えられる。
心筋梗塞後リモデリング、虚血再灌流心筋障害、エンドトキシンによる急性心不全における心筋障害について検討し、SOCS3-CKOでは、これらのストレス環境における心筋障害、心不全が抑制されることが明らかとなった。今後は、心筋特異的SOCS3欠失による心筋保護の機序を、アポトーシス、ミトコンドリア障害、酸化ストレス、DNA障害に焦点をあてて解析を行う。最近、リン酸化STAT3がミトコンドリア内の電子伝達系の分子と会合し、ミトコンドリア機能保持に重要であるという興味深い報告もなされており、ミトコンドリア障害との関わりは重点的に解析を進める方針である、ミトコンドリアDNA量、ミトコンドリア機能に関わるTFAMやPGC-1などの発現、電子伝達系complexの発現、心臓組織におけるcomplexVI染色などを行う。さらに、マイクロアレイ解析とmiRNAアレイ解析を行うことにより、虚血時に心筋のSOCS3抑制によって制御される遺伝子を同定する。SOCS3-CKOにerythropoietinを投与によって、心筋障害はさらに抑制されることを見いだしているが、ヒトにおいて急性心筋梗塞の急性期にerythropoietinを投与することは、血栓症の問題などもあり、他のJAK-STAT経路を活性化するサイトカイン(例えば成長ホルモン)についても、同様に、心筋障害抑制効果についてSOCS3-CKOにおいて検討する。
(1)急性心筋梗塞モデルを作成したSOCS3-CKOのマイクロアレイ解析:急性心筋梗塞モデルを作成したSOCS3-CKOにマイクロアレイ解析を行い、虚血時の心筋のSOCS3抑制による遺伝子発現を明らかにする。マイクロアレイはAgilent社のジーンチップを用いる。(2)急性心筋梗塞モデルを作成したSOCS3-CKOのmiRNAアレイ解析:急性心筋梗塞モデルを作成したSOCS3-CKOにマイクロRNA(miRNA)アレイ解析を行い、虚血時の心筋のSOCS3抑制によって制御されるmiRNAを明らかにする。SOCS3の発現抑制によってサイトカインシグナルが増強され、特定のmiRNAの発現によって特異的かつ統合的に心臓の遺伝子発現を制御している可能性がある。これらのアレイ解析にて得られたデータはSylvain Pradervand博士との共同研究にて行う。 特に、酸化ストレス、アポトーシス、ミトコンドリア機能に関連する遺伝子に焦点をあて解析を行う。(3)成長ホルモンの心筋障害抑制効果に対する心筋のSOCS欠失の影響:成長ホルモンが心筋梗塞後心不全や虚血再灌流心筋障害を抑制することが明らかにされている。SOCS3-CKOもしくはSOCS1/3-CKOにこれらのモデルを作成し、成長ホルモンの心筋障害抑制効果をコントロールマウスと比較評価する。コントロールマウスマウスにおいてよりも、SOCS-CKOにおいて成長ホルモンの効果が高度であれば、コントロールマウスの心筋のSOCS3が成長ホルモンの効果を減弱させている可能性を証明できると考えられる。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
J Am Coll Cardiol
巻: 59 ページ: 838-852
Circulation
巻: 124 ページ: 2690-2671
Clin Endocrinol
巻: 74 ページ: 453-458
Int J Cardiol
巻: 1472 ページ: 258-64
Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol
巻: 300 ページ: R1185-R1193
Cancer Lett
巻: 308 ページ: 172-80
Arterioscler Thromb Vasc Biol
巻: 31 ページ: 980-5
JACC Cardiovasc Imaging
巻: 4 ページ: 1110-1118
http://www.kurume-shinzo.com/