重症下肢虚血に対する治療法として、単核球細胞移植による血管再生治療の有用性が認められているが、この治療法には腎不全、糖尿病症例や高齢者を中心に約30%の治療無反応例(Non-Responder; 以下NRケース)が存在することも明らかとなっている。我々は本法の治療機序にNotchシグナルが不可欠であることを見出し、またNRケースにおいてNotchシグナルが低下していることを示唆する所見を得た。そこでNRケースに治療効果を有する新規治療法を開発することを目標に、NRケースとNotchシグナルとの関連、Notchシグナル増強療法の妥当性を検証することを目的として本研究をデザインした。 初年度はNRモデル動物の確立と、NRモデル動物の治療無反応性に、Notchシグナルが関与するか検証した。腎不全モデル、糖尿病モデル、加齢モデルを作成したところ、糖尿病モデルおよび加齢モデルでは、対照マウスと比較して下肢虚血後の血流回復が遅延することが確認された。腎不全モデルは、下肢虚血後の血流回復に統計学的に有意な差を認めなかった。しかしこれら3モデルはいずれも、下肢虚血作成後にみられるNotchシグナルの増強が著明に減弱していることが見出された。またこれらNRモデル動物に単核球移植による血管再生治療を行ったところ、治療効果の減弱が認められ、Jagged1過剰発現細胞の移植により、部分的に治療効果の改善を得ることができた。 続いて治療効果予測の研究を行った。近年、Jagged1とDll4とでは、血管内皮細胞の増殖に対する効果が相反することが報告され、我々の臨床検体からもこれを支持する結果が得られた。そこで研究計画を一部変更し、Jagged1またはDll4を過剰発現させた細胞移植による血管再生効果の差異を検証した。その結果、野生型マウスの下肢虚血にDll4を過剰発現した細胞を移植したところ、Jagged1過剰発現細胞と比較して治療効果が減弱することが確認された。
|