研究課題
我々は平成20-22年度の科学研究費補助金による研究でエリスロポエチン(EPO)受容体アゴニスト(HBSP)の抗動脈硬化作用について検討を行い、HBSPが家族性高コレステロール血症の動物モデルであるWHHLMIウサギを用いた実験において冠動脈の動脈硬化病変を有意に抑制することを明らかにした(Mol Med. 2013; in press)。本研究の目的はこの研究成果を発展させてHBSPと生物学的効果が同等でより安定したペプチドであるARA290のマクロファージ泡沫化に及ぼす影響とその細胞内シグナル伝達を検討することである。平成23年度の研究では、末梢血ヒト単球(PBMC)およびヒト単球由来のTHP-1をそれぞれM-CSFおよびPMAによりマクロファージへ分化誘導し、Western blot法を用いて細胞内シグナル伝達系を検討したところ、EPOおよびARA290はともにマクロファージへ分化したTHP-1においてERK1/2とAktを2相性にリン酸化することが判明した。これは血管内皮細胞でみられた1相性のリン酸化パターンとは明らかに異なっていた。さらに平成24年度の研究ではTHP-1由来のマクロファージ培養系に酸化LDLを加えて泡沫細胞へと誘導する実験系を確立した。この培養系で得られた細胞をOil Red Oで染色してデジタル顕微鏡システムを用いて定量評価したところ、ARA290は酸化LDLによるマクロファージの泡沫化を有意に抑制することが明らかになった。この結果はARA290による動脈硬化抑制のメカニズム解明において重要な意義を有しており、PBMCを用いた実験系においても検討中である。本年度の研究ではapoE欠損高脂血症モデルマウスを用いたin vivo実験も予定しており今後の研究の進展が待たれる。
3: やや遅れている
THP-1由来マクロファージを用いた研究に関してはほぼ予定通りに進行しているが、PBMC由来マクロファージを用いた研究には遅れが生じている。これはサプライヤーから供給されるPBMCの1バイアル当たりの細胞数が少なく、さらにM-CSFに対する反応もバイアル毎に異なっているためである。このため、THP-1由来マクロファージを用いた研究を先行させて実施し、要となる実験結果をPBMC由来マクロファージを用いて確認できるように実験系を工夫して進めている。
平成25年度はapoE欠損高脂血症モデルマウスを用いてin vivoにおけるARA290の動脈硬化抑制効果を検討する。実験概要:apoE欠損高脂血症モデルマウスを2群(各群n=12)に分けてARA290またはControl peptideを8週間投与する。投与終了後に心臓から採血して血清を分離し凍結保存する。大動脈を取り出して腹側に沿って縦切開し弓部大動脈と胸部および腹部大動脈に3分割する。弓部大動脈はホルマリン固定・パラフィン包埋して病理組織学的検討を行い、胸腹部大動脈は凍結保存してコレステロール含有量の測定およびWestern blotにより細胞内シグナル伝達を検討する。また、in vitro実験に関しては研究実績の概要・達成度で述べた点を踏まえて主にPBMC由来マクロファージを用いて研究を推進する。1)マクロファージの泡沫化誘導:PBMC由来のマクロファージ培養系にvehicle、酸化LDL、酸化LDL+EPOまたは酸化LDL+ARA290を加えて24時間培養し、泡沫細胞へと誘導する。2)脂質蓄積量の評価:1)の細胞をOil Red Oを用いて染色し、デジタル顕微鏡システムで定量評価する。3)炎症性サイトカインおよびMMP-9の測定:1)で得られた培養上清を用いてマクロファージ泡沫化の過程で産生される炎症性サイトカインおよびプラークの不安定化に関与するMMP-9を既報の実験系(Atherosclerosis. 2008;196(1):129-35.)を用いて測定し、これらの産生に及ぼすARA290の影響を検討する。4)細胞内シグナル伝達の検討:THP-1において得られた結果を踏まえてEPOおよびARA290の細胞内シグナル伝達をPBMC由来マクロファージを用いて確認する。以上の結果を解析してマクロファージ泡沫化抑制の分子機構を明らかにし、論文に発表する。
該当なし。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Mol Med.
巻: 19 (1) ページ: 195-202
10.2119/molmed.2013.00037.