研究課題
我々は平成20-22年度の科学研究費補助金による研究でエリスロポエチン(EPO)受容体アゴニスト(HBSP)の抗動脈硬化作用について検討を行い、HBSPが心筋梗塞を自然発症するWHHLMIウサギを用いた実験において冠動脈の動脈硬化病変を有意に抑制することを報告した。本研究の目的はこの研究成果を発展させてHBSPと生物学的効果が同等でより安定したペプチドであるARA290のマクロファージ泡沫化に及ぼす影響とその細胞内シグナル伝達を検討することである。THP-1由来のマクロファージ培養系に酸化LDLを加えて泡沫細胞へと誘導し、oil red Oで染色して定量評価したところ、ARA290は酸化LDLによるマクロファージの泡沫化を73.5%抑制し、その効果はEPOと同等であった。泡沫化抑制の機序についてWestern blot法を用いて検討すると、ARA290はコレステロール引抜きに重要なABCA1の発現を増加させ、ERK1/2とAktを2相性にリン酸化することが判明した。このリン酸化パターンは末梢血ヒト単球(PBMC)由来のマクロファージにおいても観察された。次に初期動脈硬化病変の形成に及ぼすARA290の影響を検討するため、普通食を与えたapoE欠損マウス(n=12)に30μg/kgのARA290を3回/週、8週間皮下投与し、コントロール群(n=12)には同量のプラセボペプチドを投与した。安楽死後大動脈を摘出し、免疫組織化学法を用いてプラークの定量評価をおこなったところ、ARA290はABCA1発現細胞数を増加させ(コントロール群 178 ± 17 /mm2、ARA290群 276 ± 24 /mm2)、大動脈プラーク面積を有意に抑制(コントロール群 6.9 ± 1.0%、ARA290群 1.8 ± 0.3%)することが明らかになった。ARA290は将来の臨床応用に向けてHBSPをより安定化させたpyroglutamate HBSPであり、新しい動脈硬化治療薬として期待される。
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Mol Med.
巻: 19 (1) ページ: 195-202
10.2119/molmed.2013.00037.